後ろにじぶん



「今めっちゃ感動したんやけど。」
「なにが。」


「休みだし、どっか行こうか」って話をしたのは三日前。「授業中に寝とったら宿題倍にされてもうた」と謙也が言ったのは昨日。

休みの日、綺麗な秋晴れだというのに謙也のせいで予定はなかったことになってしまった。
腹いせにと謙也の部屋に押しかけても宿題に追われる大好きな謙也の邪魔をするわけにもいかず。暇すぎる俺は勝手に漫画を読んだりイグアナと遊んだりと好き勝手させてもらっていた。
好きな人が手が届く距離にいるのに関わらずに時間をつぶすのは案外大変なもんだな、なんて抱き上げたイグアナに関係ない話を振っていたりすれば急にキィと良い音たてたのは部屋の主が座っている椅子。
どうやら方向転換してこちらを向いたらしい。飽きたのかそれとも分からないところがあるのかなーと振り返れば、俺の顔見て瞳を丸くさせた謙也の顔。そしてさっきの言葉。


「感動って、まさかイグアナにか?」
「ちゃうわ!ちゅーかイグアナはいつも可愛えっちゅーとるやろうが!」
「そーですか。」


何でもかんでもイグアナのこととなると力が入る謙也はさておいて。
とりあえず飼い主は何か言いたげだし、まずはイグアナを住処に帰してやる。なんていうかたまに遊びに来る俺のことをしっかりと覚えてくれているようで、丸い瞳は俺をジッと見てくれる。謙也ほどじゃないけれど、可愛いと思うよ。

んで、改めて謙也の方を見るといつ見ても無駄と感じてしまう高速シャーペン回しをしながら俺のことをイグアナ同様ジッと見ていた。なんだ飼い主に似たのか、と納得していれば「あんな。」と話を切り出されたので素直に床へ座って謙也を見上げた。

シャーペンを回していた手を止めて、色あせたようなそれでいて綺麗な茶色の髪をわしわしとかき混ぜ数秒の空白を開けてから唇はそっと動いた。


「後ろ、振り向いてな?慎が居るっちゅー光景に、感動してもうた。」


ここは俺の部屋やん、せやのに振り向いたらそこに慎が居るのって異次元みたいやなって思うてん。

謙也が言った意味を理解するまでにかかった時間は何十秒だろう、残念ながら数えていなかった。その間に謙也はシャーペンを机に置いて「も、やる気せぇへん」と言い捨てて椅子から立ち上がって俺の目の前に座った。
ジッと、ジッと。ひたすらに俺を映す謙也の瞳に映った自分の顔は、気のせいかな、ちょっと赤い。いや、確実に赤い。隠せないほど赤い。
いつもと違う景色に謙也はどれだけ感動してくれただろうか、俺はその言葉を聞いて理解して体が震えだしそうなほど感動してしまったよ。
何も言えなくなってしまった俺に鼻で一つ自傷気味に笑って見せた謙也は眉を寄せて、そっと体を寄せて。肩に乗せられたシャーペン回していた掌。


「極端な例えやねんけど…その、一緒に住んどるみたいやったっちゅーか…。」
「…んなの、」


ずるいよ。

そう言いながら、謙也の腕を引いてただただ言葉にできないほど感動していることを伝えたかった。でも謙也はどう捉えたのだろう、弧を描いた唇を俺の頬へ寄せた。熱い、唇。頬に三日月の模様が残ってしまわないか心配になるほど熱かった。

卑怯、その一言に尽きる。一緒に住んでいるようだと言われて嬉しくない恋人がこの世界にいるわけないじゃないか。
馬鹿なこと言う謙也にクラクラさせられているのは馬鹿な俺、だったら格好つけることもなければ威張ることも謙遜することも何もない。そのままの俺で、そのままの謙也と愛しあいたい。
瞳に蓋をするのは瞼の役目、俺の唇に蓋をするのは謙也の唇の役目。


「宿題、どうすんの?」
「夜やる。」
「…あっそ。」


明らかなその場しのぎに納得したふりして、大事なことは後回し…いや、謙也とキスをすること以上に大事なことなんてない。




後ろにあなた、後ろにじぶん




キスして、手を深く繋いで、笑顔を零して、もう一度、もう一度。
謙也のそばに俺がいるよ。他の誰でもない俺がいるよ。


「ちゅーか、今日泊まっていかへん?」
「……あ、分かった!お前本当は分からない問題あって聞こうとしてたんだろ!!」
「えっ!?そそ、そんなわけあらへんやろうが!!あれは…何しとんのかなーって振り返っただけや!!」
「そんな見え透いた嘘に騙されるか!バーカバーカ!!」


背中を合わせあって寄りかかりあっていたい、どちらかがいなくなったら倒れてしまうように力を込めて。
愛した人に後ろを許された優越感、イグアナには分かってもらえるかな?


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どうしても
謙也は少しだけ
格好悪くあって
ほしいなーとか(笑)

はんじさま
いちゃいちゃできて
おりますでしょうか!?
甘々くらいを目指して
見たんですが…(´`;)

何か直してほしいところとか
あったらぜひぜひ言ってください!
喜んで直しますので!

リクエストありがとうございました!


2014,10,10


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