先輩様と後輩様と



遠くでたまに鳴って、そしてたまに途切れて。聞きなれた音だとは思ったけど、体は睡魔に勝てずその音がなんなのか確認することはせずに瞼は降ろされたまま。
そんなことを何十回と繰り返したと思う、いや数回だったか数百回だったか。その辺は細かいこと、とりあえず瞼を上にあげたら飛び込んできた景色は俺の部屋の見慣れた天井ではなくて、保健室の天井でもなくて…色あせた青空に散りばめられた白い雲だった。
寝起きの瞳にはそれが眩しくて横を向けば、俺の方を向いて寝息たてている後輩が。

そこでやっと思い出したわけ。授業サボって屋上で昼寝していたんだったと。じゃさっきの聞きなれた音は…もしかしなくても。
きょろきょろと見渡し近くに脱ぎ捨てた学ランを見つける、座ったままズリズリ動いてポケットを漁るとビックリ驚愕。思わず「やっべー」と声を出せば光がもぞもぞ動き出す。


「おはよ光、白石から着信26回入ってるってかもう部活の時間だわ。」
「…はよっす……へーそんな時間っすか、もう…。」
「むしろ始まっているっていう?」
「へー…。」


あんまり覚醒しきらない光の肩を揺さぶってちゃんとさせる。途中どっかで顔を洗わせるか。俺は白石からの着信の多さに目が覚めたけど。
26回ってどんだけ頑張ってんの?まぁこんな時間まで爆睡していた俺たちも俺たちだけどさ。だってお昼休みからずっとここに居たし、弁当食べてすぐ寝たんだよな。で、今に至ると…結論、寝すぎた。今度からアラームセットして寝るわ。
と反省はしているんだけど、それでは許してもらえないのが辛い世の中です。


「慎、光、屋上で昼寝しとって遅刻っちゅー事がどれだけ無駄な行為か分かっとるんか?」
「無駄じゃねーし。めっちゃぐっすり快眠ですっきりした。」
「俺も寝不足解消されてテニスに打ち込めそうっすわー。」
「もうあと30分しかあらへんがな!」


白石が案の定ご立腹だよ、面倒くさい。部室前で正座させられて(いやもう崩して胡坐してるけど)説教させられている。


「今から行くっちゅー電話から20分も経っとるし、だいたいなんやそのカップケーキは!」
「顔洗うて廊下を静かに歩いて自分らの荷物回収してきたんでしゃーないっすわ。」
「コレは料理研究部だっけ?そこから良い匂いしたから顔だしたらくれた。」
「寄り道すな!!」


廊下を歩く俺たちは、それはもう廊下を歩くことに関してプロと呼ばれてもおかしくないくらい素晴らしかったぞ。一歩一歩だらだらやる気なく歩くと教室までたどり着くのに8分使ったぞ。
そこから部室へ向かう最中、匂いに誘われて家庭科室覗いたら美味しそうなもの作ってたんだよ。いいなー美味しそうーって言ったらみんなキャッキャッ言いながらくれて、歩きながら光と分け合って食べた。最後の一個は部活後なって感じでお預け。

そんな俺らに白石が頭痛そうに額に手を当ててため息。問題児ですいませんね、なんて軽く頭の中で謝った俺たちに顔を上げた白石はそりゃもう笑顔笑顔。毒手効かない俺たちにつける薬はキッツイ罰と昔から決まっている。
今回は特にきつそうだ、だって額に青筋浮かんでるし。「うわぁ…」って光が小さく声を漏らすほど。


「とりあえずグラウンド40週、それ終わったらコートの後片付け。そんで部誌に今日のこと書き込むこと、ええな?」
「よんっ!?…寝起きの身体にそれは辛い。」
「さよか、60週の方がええか?」
「喜んで40週いってきまーす。」


立ち上がってカップケーキを白石に渡して「行くぞ光」と声を掛ければ無言で頷き立ち上がる光、顔に「面倒っすけどやらなもっと酷いことせなアカンのでしょ?あー嫌っすわー」と書いてある後輩をお供に走り出す。
横に並んで同じペースで走るのも慣れたものだ、こいつが一年の時から俺と一緒にサボったり馬鹿しては怒られて罰を受けているせいだけど。
となると緊張感もなければ罪の擦り付け合いもない、あるのはせいぜい不満を爆発させるくらいだ。

あと、悪いことを話すくらいかな。


「それにしても厳しすぎね?」
「まぁ過去最大級の遅刻やし…むしろ軽い方とちゃいます?」
「光はそれでいいのかよー、なんか仕返ししたくない?」
「久々にその言葉を聞いた気がしますわ。」


同じクラスの白石にああやって罰を受けるたびに、やり返したくなってしまうのはしょうがないよな。だってアイツ見た目と成績良いだけの絶頂馬鹿なんだぜ、そんなのに負けたと思うとかなり悔しい。
だから昔から、お返ししているわけだ。っていっても周りのみんなが笑ってくれるようなことしかやらないけどな。だってここは四天宝寺、笑わせてなんぼの学校。


「黒板消しを投げつけるのも背中に張り紙つけるのもやったし…部誌になんか書く?」
「あー…1ページ丸々「絶頂」って書けばええんとちゃいます?」
「ついでだから白石のスポドリの中身を炭酸水に変えてめっちゃ振っておくか。」
「じゃ慰め程度に鞄の中に毒草でも突っ込んどきますわ。」


あー良くある先輩後輩のよき姿、此処に極められたりって感じ。




先輩様と
 後輩様と
寝坊と仕返しと
    被害者様




次の日。


「お前らなぁ…。」


炭酸水を顔面から見事に浴びて怒り狂ってらっしゃる我らが部長は、すごい勢いで噴出した炭酸水に俺たち含め部員全員が笑ったというのに犯人の特定が早いときた。
一度タオルと取りに部室へ戻った白石だったけど、その数分後濡れた顔もそのままにわざわざ部誌と鞄を持って出てきた。あーさっき光が「タオル邪魔で草入らへんから出してええですよね」って言ってタオル床に投げ捨ててたからなー。

そんなわけで。

あっさりばれた仕返しにまたもや部室前で正座だよ(いやもう胡坐だけど)、光に至ってはスマホ片手にツイッター中。俺もラケットをくるくる回してお遊び中。


「この部誌も、この水も、この毒草もお前らやろ?5分遅刻して来よったと思うたらこない無駄なことしとったんか。」
「無駄じゃねーよ、部員全員の笑顔を作るっていう大事なことであってだな。」
「やかましい!部誌のページと吹き零れた水と毒草の使い道が無駄やろうが!」


え、そこかよ!?と突っ込む俺の襟首を掴んで怒る白石が無駄についてどーのこーのと説教というか説明というか演説というか…そういう類の何かを始めた。顔近いし息苦しくて死にそう。こんなことされるならやるんじゃなかったと思うくらい嫌なんだけど。
他の部員たちもこの光景に笑っているようでちらほら聞こえてくる笑い声が憎い、笑う所はもう終わったってーの。


「ほんま、慎先輩と居ると飽きへんっすわ。」


白石の言葉ばっかり耳に流れ込んでくるもんだから光の独り言を聞き逃したし、濡れてもいい男な白石の目がこっち見ろゴルァと言ってくるもんだから光の楽しげな笑顔も見逃した。
それはそれは瞳を細め口の端を綺麗に上げた、珍しい光の満面の笑みだったそうな。


「まぁまぁ部長、慎先輩の首締りかかっとりますからその辺で。」
「光…さりげなく背中に紙張ったやろ?」
「『絶頂!!!!』って書いた紙ですから問題ないっすわ。」
「あー、それ俺が張ろうと思ってたのにー。」
「慎?光?70週と80週とどっちがええ?」
「「…70週で。」」


今日も素晴らしい仕返し日和。そして素晴らしきランニング日和。


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悪戯大好きな
光も
いいなーとか。

なんだか会話文
多くなってしまいました…
そして白石への
被害が多く(笑)
ギャグになっていればいいんですが
大丈夫でしょうか??

薙さま(´`)
何かありましたら
遠慮なく言ってくださいませ
喜んで手直しいたしますので!!

リクエストありがとうございました!


2014,10,06


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