10年後の



もしも怪我しても家が病院なら安心?体調悪くてもすぐ見てもらえてええな?
ええことあるかいな。


「へー、あの忍足先生の息子さんなんだ。なんでわざわざ他の病院きたの?」
「跳び箱で足くじいた馬鹿な息子なんか見たないっちゅーて門前払いされてもうたんですけど!?」
「それは予想以上の理由。」


うちはそない甘い家やない、それどころかこんな扱いやぞ!
家に電話して「足くじいて歩くの辛いねん、早退するさかい診てくれへん?」ちゅーたら「絶対嫌や、駅前の病院にでも行きや。」やって。親父帰ったらほんまに殴る。
しゃーないからオカンとタクシー使こうてわざわざ駅前の病院まで来たっちゅー…俺、可哀想やないか?結構これって可哀想やない?

カルテ見た若い先生が俺の名前にピンと来たらしく「あれ?忍足ってもしかして…」て気づかんかったら隠しておこかって思っとったけど、どうにも親父は有名らしい。
俺の話に笑った先生はさっき撮ってくれはったレントゲンを見ながら「やっぱ捻挫だったね」と一言。せやろうな!


「ちゅーか先生、大阪の人やないの?」
「生まれも育ちも東京の新米診療放射線技師だよ。あ、天城慎っていうんだ。忍足先生によろしくね。」


あない最低な親父によろしく言うわけないやんけ!それよりくすくす笑うた天城さんの言うた…診療放射…なんとかっちゅー聞きなれん専門職、やったっけ?そっちが気になった。
俺も一応医学の道を辿るつもりの人間やさかい、どんだけ専門分野があるんかなっちゅーてある程度見たことあってその時に見た名前の一つやったはず。
たしか、その名前とおり放射線を使うスペシャリストやったかな。曖昧な記憶をたどっとれば天城さんは頬を掻いて「想像通りだよ」と言うては近くの棚からパンフレットを取り出して俺に渡してくれはる。


「患者さんにも聞かれるんだよね、何する人って。」
「…これ、専門学校のパンフレットやないすか。」
「うん、俺もそこで学んだ。口で言うよりもパンフレット読んでもらう方が楽でね。」


いくつかもらってきたんだ、やなんて軽い言葉を聞きながら放射線技術専門学校のパンフレットの表紙をめくれば一番目に書かれとったことはまさに「診療放射線技師とは?」っちゅーぴったりなもんが。
X線もCTも超音波診断、その他放射線治療…今の医療には必要なことを仕事にしとるっちゅー説明は確かに分かりやすい。せやけど卒業した専門学校のパンフレットって…思わず笑うてしまいながら天城さん見れば笑い返される。案外その辺面倒くさがりなんかな?見た目は普通の好青年っちゅー感じやけど。
捻挫した方とは逆の脚が履いとった病院の安っぽいスリッパをプラプラ空中で遊ばせながらパンフレットを読み進める。


「結構難そうやなー…大変とちゃいます?」
「んーまぁね、大変っちゃ大変だけどその倍くらい楽しいよ。」


天城さんは「なんか格好つけちゃったな」ちゅーて頭をガシガシとかき混ぜ笑うた、さっきからずっと笑顔やな。会った時から、今の今まで。
まぁ医者やこういう専門技師が暗い顔しとったら患者は不安になってまうからかもしれんけど。
せやけど天城さんの笑顔はそういうのやなくて言葉通り今の仕事が楽しくてしゃーないっちゅーか、大変なんやけど頑張っとる最中っちゅーのを感じてまう。そう充実感が笑顔から見て取れる。
医者って大変なもんやって親父とかから散々聞いとるし散々見とる。そんな中で、これだけ笑っていられるのは天性の才能なんかな。羨ましいやっちゃな、素直にそう思うてもうた。

パンフレットに書かれとる売り文句、「これからの現代医療に必要不可欠な医療専門職」…せやのに目の前には無害そのものの笑顔。天城さん、どんだけ楽しいんかな?どんだけやりがいあるんかな?
俺でも、その楽しさとやりがいを手にすること出来るんかな?


「そういう道もあるんやな。」
「まぁ医学の道はいろいろあるからね。」


とんでもない数に枝分れしとる医療の道、俺も選ばなあかん。今すぐにっちゅーわけやないけど…夢を願うのは今からでも遅ないし早ない。
捻挫するわ親父に門前払いされるわ最悪な一日やった、せやけど…まぁ、ええこと知ってもうたしええもん貰ってもうた。
手の中にあるパンフレットはよう見たら他の誰かが見たような汚れがついとる、診療放射線技師ってなんやねん、ちゅー患者がコレ読んだあと天城さんに返したんやろうな…今までは。もうお前は棚に戻らんでええんやで、これから俺の部屋に居ってええからな。そんで、俺に夢を見させてな。


「コレ、貰ろうてもええですか?」
「へ?…あぁ、うんいいけど。」


勿論開業医の親父の跡継ぎたいっちゅー気持ちがある、せやけど此処にきて新しい気持ちが生まれてもうた。
今はまだ「もしかしたら」の話やけど、俺が診療放射線技師になった時、天城さんはその道のスペシャリストになっとったりして。そうやったら一緒に働けるチャンス少ないかもしれんけど、それに相応しいだけの努力と結果を残せばええんや。トップの成績残して、目標は天城さんって言うて、力量を認めてもらえれば…。

身近すぎる親父には感じられんかった尊敬とか憧れとか…今、目の前に居る人に感じとる。ただ純粋に、この人の背中を追ってみたいっちゅー思いが溢れてくる。


「もしも、俺が診療放射線技師になったらどないします?」
「うーん…難しいこと聞くね。じゃその時はどうして診療放射線技師を選んだのって聞くかな。」


あはは、と笑う天城さん。よっしゃ、その言葉忘れられへんうちに追いついたる。スピードスター舐めとったらビックリして腰抜かしてまうっちゅーこっちゃ。




10年後の
未来を変えたのは
(誰でもない君)




もったいないとか、考えなおせとか褒め言葉やと思った。
この数年間そう思うてずっとずっと真っ直ぐ歩き続けた、立ち止まりそうなときはあの日のことを思い返して前向き直した。
そんで開き直った。馬鹿にすればええやんけ!これが俺が歩きたかった道やねん!なんとでも言えばええ、ちゅーか今更変えられるかっちゅー話や。
夢を見るんは自由や、夢に向かうのも自由や。夢を叶えるのは自分次第。


「ひよっこ技師の忍足謙也です、ちゅーことでこれからよろしゅう願います天城大先輩。」
「こりゃ笑い話だな…えーと?どうして診療放射線技師を選んだの?だっけ。」
「覚えとった!?俺のレントゲン撮った人がええ技師さんやったからっちゅー感動的なお話や!」


やっと手が届きそう、あの大きな背中に。やっと恩返しできそう、あの日の慎さんに。
あの日よりも優しさが増した笑顔は心の中に残っとった笑顔と同じ、俺の背中を押してくれはる。よっしゃスタートラインに立てたんや、も一回ストレッチし直して呼吸整えてスピードスターの本領発揮やで。
これから毎日、ずっとずっと診療放射線技師の楽しさとやりがいを俺に教えたってな。


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謙也は
真面目に
真っ直ぐ歩いてきそう。

書くにあたって
色々と調べたのですが
なにか間違ったことを
書いていたら遠慮なく
言ってくださいませ…!(>_<)

いかんせん
管理人は
生まれた時以外
入院をしたことがゼロなので
病院知識ががががが。


トモさま!
なにか不備がございましたら
ぜひぜひ言ってくださいませ!
喜んでお直しいたします!
リクエストありがとうございました!


2014,10,03


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