逮捕して確保して



朝から体育なんかやってられない。ホームルーム終了後、なにが楽しくて寒い体育館でバスケなんかやらなきゃならないのだろう。
登校時より運動嫌いな俺はローテンション、ホームルームで担任が言っていた話しもギャグもやる気がないせいでこれっぽっちも覚えていない。覚えているのはずっと溜め息吐いていたことくらい。

だがサボるほどの事でもないし、前から結構サボっていたからそろそろ先生に怒られる。それだけは勘弁だからジャージを手に椅子から立ちあがった。


「だる…謙也、行こうぜ。」
「どないしたん、なんか暗ない?」
「体育がだるくて死にそう。」
「さよか。」


後ろの席にまだいた謙也に俺のやる気のなさをアピールしても「いつものこと」と一蹴りされた所で、カーディガンの袖へ手を引っ込めながら廊下へ向かう。
冬は寒いから嫌だけど、雪とかは好きだ。綺麗だと思うしイベントだってワクワクする。けれども寒いので嫌いとしか言いようがない。この季節になると、朝はこんな感じになる。


「まじバスケなんかなくなれ。」
「無くなっても体育っちゅーことは変わらんで。」


くだらない会話をしながら体育館へ向かう俺の猫背っぷり。隣を歩く謙也もそこまでノリ気ではないからシャキッと立っているわけじゃないのに、モデルさん並に背筋を伸ばしているように見えるほど。

それに、俺は体育が嫌いなわけがもう1つあるし。

ジャージへ着替えるために更衣室へ入れば、先に何人かいるにも関わらず結構寒くて服を脱ぐのが辛そうな顔して速攻で着替えていた。ソレを見ただけで鳥肌。
「俺もはよ着替えな」と謙也が勢いよく学ランを脱ぐものだから、これはしょうがないかと諦めカーディガンのボタンをはずそうと袖から指を出した、時。

ジッと俺の背中へ刺さる視線1つ。
だから体育は嫌いだ、学ランのままでも出来るスポーツを提案してほしい。

脱ぐのを止め、くるりと振り返って


「見てんじゃねぇよ、変態。」


直球ストレート、きっつい言葉を顔がよろしい正真正銘の変態へ投げつけた。
ソイツ、白石蔵ノ介は俺達よりも少し遅れて更衣室へ来たらしく、ボタンの1つも外していなかった。ただ壁に寄りかかって俺を見ながらニヤニヤしていた。キモイ。
いや見た目はかなりいいぞ、いいんだけど中身が相当重症なんだ。

着替えようとしていた手を止め蔵を睨む俺に首を傾げながらジャージを指さし、着替えを促すその姿に謙也は「ほんまアホや…」と呟いた。


「慎、はよ着替えな遅刻してまうで?」
「じゃお前もさっさと着替えろよ。」
「俺は慎が何色のパンツ穿いとるか確認してから着替えるで?」
「そうか。お前は着替えるよりも警察へ行くことを優先してくれ。」


何の戸惑いなくサラッと人のパンツ気になる発言に友達から出頭を進めさせていただく。お前は捕まった方が良い人種だから。

かれこれ半年ほど前だろうか、それとももっと前からだろうか。蔵にさらりと告白された。
それは息を吸い息を吐くが如く、好きだということが当然であり覆る事がないものだとハッキリ言われた…テニス部と弁当食っているときに。
そんな馬鹿は告白した日を境に俺の全てに興味を持っていたと暴露、ストーカーと呼んでも問題ないほどの執着は度を超えているもの。しかし明るく一切隠す事のない愛にクラスメイトはネタ扱い。転校したい。

今日も俺のパンツが気になるなんて言いだすのは慣れたもの、体育があるたびどころじゃない、トイレへ行こうとしたら聞いて来た事があるくらいだ。

しかし慣れた、とは言うもののガン見されながら着替える趣味は持っていない。


「謙也、ほら。」
「…白石、あかんて。冗談抜きでほんまに捕まるで。」


浪速のスピードスターは足だけではなく着替えも早いので着ていた学ランを手に蔵の前へ立ちふさがる。その間にさっさとカーディガンとワイシャツを脱ぎ、Tシャツを着る。
ギャーギャー騒ぐ2人の言い合いも聞こえないフリしつつベルトをはずし、謙也に負けず劣らずの速度で着替えを済ませる。もう寒いとか言ってられない。

ジャージのチャックを上まであげて、俺は着替えをまとめ収まる気配がない言い合いをぶった切るため、もしくはいまだ着替えを始めていない蔵から逃げるため謙也の腕を引いた。


「謙也サンキュ。行こうぜ。」
「おん。」
「ちょ、謙也、お前のせいで今日も慎のパンツ見れんかったやんけ!」


聞きたくない文句を受け流しながら体育館へ足を進める。もうあの馬鹿には付き合ってられない。
はぁ、と溜め息を吐き出せば謙也が「元気出しや」と慰めてくるのが逆に辛い気がしながら、閉めた更衣室の扉めがけ一番言いたい言葉を吐き捨てた。聞いていてもいいけど、きっと引きも凹みもしないだろうな。


「早く捕まればいいのに。」


確かにそう強く思っている、けれどだ…俺は一度も110番したことがない。パンツを見られようともハグされようとも押し倒されようともキスされかけようとも、だ。
なぜだろう…疑問に思うだけ思って、いつも答えは見つけられず。今日も熱烈ストーカーからのセクハラに耐えるのだった。




逮捕して確保して




ピー…!


先生が鳴らしたホイッスル。それと同時にコート内にいるクラスメイトが動き出す。
だが俺はそれに逆らう形で、相手ゴールの下でボンヤリしていた。なにせ相手チームには蔵がいる、蔵は運動が得意で中心でボールを奪い合っているから早々コッチには来ないだろう。


「寒い。」


ジャージの袖の中に手を引っ込めて全身やる気がないアピールをする俺へボールを回す馬鹿なんて何処にもいないだろうし。
欠伸も隠すことなく大きく口を開きながらやっちゃえば、


「天城!」
「へ、」


チームメンバーからのご指名。そんな緩い考えはコート内では止めた方がいいらしい。

ビュっと飛んでくるボール、しかし俺の手は袖の中に引っ込めたまま。それどころか欠伸した後で瞳に涙がたまって視界がぼやけちゃってどれくらいの距離まで来ているかも分からなくて。
ただ茶色いボールがコッチへ向かってきているという曖昧な情報だけ捕えて、ボールは捕えられないだろう。

受け止められない、当たる。
瞳を閉じる事も出来ず瞳を大きく開いた、驚きで涙が少し引いた。

その時、瞳が捕えたものは俺よりも大きな背中とボールをキャッチする長い腕。

バシッと良い音が体育館いっぱいに響いては反響。そのあと、間を開けずに聞こえたのはビュっ、なんていうボールを遠くへ投げる音。
キラキラの髪を揺らしながら投げたボールの行方を確認したソイツに、固まりかけていたコート内の時間が何事も無かったかのように進みだした…俺だけ残して。


「あかんでぇ、余所見してもうたら。」


ゆっくり振り返るソイツ…蔵は、こめかみから汗を流しながら微笑んだ。そのままボールを追いかければいいのに、蔵はいまだ状況を理解しきれない俺の方へ近づいて。


「ほんま…今のは心臓冷えたで。でも、最高にエクスタシーやったな。」
「…くら、」
「ん?」


110番したことがない。
コイツはいつもアホだし馬鹿だし変態だしストーカーだし…上げればきりがない。けれどもこうやって助けてくれる。
憎みきれない、とはこういうことだ。きっと俺は何時まで経っても三つの数字を押す事が出来ないのだろう。


「あ、りがとう。」


顔を覗き込んで来る蔵に素直にお礼を言えば、また微笑まれる。
本当にコイツは…


「お礼は体でええで?痛ないようにじっくり…」
「先生!今ので白石が複雑骨折したんで救急車呼んで下さい!!」
「してへんしてへん!俺と慎を引き離すもんなんか呼ばんといてください!!」


変態なところ隠しておけば、俺はころりと落ちてお前のモノになっているはずなのに。
まぁ、そんな馬鹿な所も魅力かもしれない。そう言うことにしといてやるよ。
蔵に確保されてたまるか、負けず嫌いな俺は仕方なくコートの真ん中へ走しだした。それこそ自由を求めた脱獄犯のように。


「慎が好きやからしゃーないやん。」
「…え?」


ピッピッピー…先生が鳴らしたホイッスルの中に紛れた言葉は、なに?
聞こえなかった、と振り返れば笑顔で俺のほうへ走ってくる白石、その格好の良さにドキリとしてしまった大きな心臓の音色もホイッスルに紛れてしまえと強く強く願った。


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ハルイ様から
『変態白石に謙也とドン引きする甘ギャグ』とリクエストを頂いた時から

「白石にパンツと言わせたい…!」

そう思い続け、やっと形に…すいません。(笑)


ギャグは少なくなっちゃいましたかね…もうちょっとはっちゃけた方がいいかと思ったんですが
白石がはっちゃけると終わらなくなるんですよ…。
謙也もちょこっとすぎたような…
きっとこの後、セクハラされて謙也に助けを求めると思います(´`)


長くなりましたが、ハルイ様いかがでしょうか?
何かありましたらぜひ言ってください、喜んで直しますので(笑)

本当にリクエストありがとうございました!

2013,11,25


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