繋がりを得たお前



神様の遊び心って怖い。

休みの日に街をフラフラしていた俺は予想外の人物に発見された。

俺が氷帝学園一年生の時に、神奈川のストリートテニス場でボコボコにしてやった切原赤也だった。コイツに見つかってしまった。厄日だ、素直にそう思った。

あの時は酷いテニスをする奴がいるもんだ、とコテンパンにしてやった。その後切原が『打倒!天城慎』と思ったかどうかは知らないが、俺が大阪へ引っ越した事も腕を痛めテニスを止めた事も知らず色んなストリートテニス場を探しまわったそうだ…。

何年も会えずで諦めかけていた、のに。近場のストリートテニス場で出会えなかった俺を大阪で発見した切原は、


「運命っすよね。」
「はぁ…。」


そう上機嫌で話す。
四天宝寺中との練習試合をこなした後にしては、疲れを感じさせない笑顔をニッコリ見せつけてくる切原に昔感じた怖さなどは感じず…むしろ人懐っこく年下らしい可愛さすら感じる。

立海大付属の面々は練習試合のためだけに大阪へ来て、練習試合が終わったらさっさと帰るという。
練習試合に移動にと切原と会わなかった間のことをゆっくり話せなかった事もあって、俺は駅まで見送りについてきた。

というか、立海大付属のレギュラー陣って個性的で基本顔がよろしい。道行く人たちが振り返ってしまうほどの美形集団なのだ。

そんな視線お構いなし、と歩く俺の背中に覆いかぶさる切原の重みに背を丸くしながら歩を進める。


「やっぱ慎先輩とは何時か試合する運命っすね!」
「だーかーらー…」
「そうじゃないなら、他の繋がりがあるんすよ。」


嬉しそうにしてくれるのはありがたいんだけど、重い。とにかく重い。切原の体重プラステニスバッグだろ?拷問かって。
話しにくいし歩きにくいしで駅まで見送ると言った事を後悔し始める俺を察してくれたのか、帽子を深く被った真田が出会った時の様に襟首を掴んで引きはがしては例のお言葉で切原を叱ってくれる。


「たるんどるっ!!」
「別に何もしてないじゃないっすか…。」


叩かれるのは勘弁、と笑いながら優しそうな眼鏡を掛けている人に隠れた切原に、真田はさらに声を大きくする。あの…人目があるんでその辺で勘弁してください。

増える人の目に無意識に溜め息を吐いてしまいつつ、前を向けば先を歩いていた黒髪を綺麗に切りそろえている人にジーッと見られていたのに気付く。
見られていたって気付いた時どうすればいいのか迷ってしまう、とりあえず首を傾げて「なに?」と探る。


「いや、君の噂は知っていたから興味があってな。」
「興味って…跡部に勝ったとかっていう話し?」
「それもあるんだが、昔とはいえ赤也にも勝ったんだろ?」


興味深い…そう零す彼には申し訳ないが俺は平凡な一般市民。興味の対象にするには物足りないと思う。気まずくて適当に笑って視線を横へ投げれば、今度は赤い髪が視界に飛び込んで来る。
緑のガムをぷくっと膨らましながら、笑って俺へガムを1つ差し出してきた赤い髪の彼。


「俺は丸井ブン太、シクヨロ。赤也うっさいだろぃ?」
「…まぁ。」


軽く同意する俺の右手の上に置かれる彼が今食べているだろうガム。もらっていいの?と問えば笑顔で返される。そして俺の方へ一歩寄っては、立海大付属のレギュラー陣をざっと紹介される。さっき俺に話しかけてきたのは柳というらしい。

銀髪の仁王、ハーフのジャッカル、部長の幸村、眼鏡を掛けている柳生…なんと切原以外俺と同じ三年生だという。
うそ、と思わず言ってしまった俺に柔らかく笑った部長の幸村が今更だけどよろしくね、そう言いながら肩にポンと手を置く。ニコニコと笑うその笑顔を見ていると、何処か穏やかな気持ちにさせてくれる。


「だから呼び捨てで構わないよ。俺も慎って呼ぼうと思っているし。」
「え、ちょ、部長!俺が目を離している間に慎先輩と仲良くなっちゃ駄目っすよ!!」


そんなこちらの流れに今気付いたらしい切原が、真田の説教から逃げ出して走ってくる。仲良くなっちゃ駄目っていうのはどこから出てきたものかは知らないが、変な事を言っていると周りが茶化しながら赤也をペシペシ叩く。


「なんだよ、そう言うの決まりはないだろぃ。」
「生意気なり。」
「だって慎先輩を見つけたのは俺だし!!」


叩きに伸びてくる手を振り払いながら、また俺の背中へ覆いかぶさって来た切原の重みに「ぐぇ」と声が漏れる。まぁもうすぐ駅に着くから我慢してやるか、諦めつつ切原の腕を掴んで落とさないようにすれば、俺の顔を覗き込んできた。

癖のある髪に少し隠れがちな瞳が俺を見据えるので、柳の様に何か言いたい事があるのかもと見返してみれば、ソレが嬉しかったらしく少しだけ頬を赤くさせ一層力いっぱい抱きつかれる。


「慎先輩、あとで番号とメアド交換してほしいっす。」
「いいけど…。」


ポケットからスマホを出して切原にパスすれば、抱きついたまま器用にスマホを操作し始める。鼻歌交じりに作業を進めるのは良いけど、もう駅に着くんだけど。
乗る予定の新幹線までの時間もそこまでない。駅構内へ足を踏み入れたと同時に俺のスマホが返される。

柳と柳生が切符を買いに行く後ろ姿を残った皆で見送る中、切原はやっと俺に覆いかぶさるのを止めて正面に回りこんできた。後ろの次は前か、と呆れながら同じくらいの身長の切原を見る。


「メールとかしまくっちゃって良いっすか?」
「ほどほどにして。」


そこまで俺は返事しないと思うよ、と返事するがあまり聞いていないようでニヤニヤとスマホを操作している。話をする時はコッチ見ろよ、まったく。

でも…しばらくは切原含め、立海大付属の面々とは会わなくなるんだと思うと少しばかり心に穴が開くような言葉にしがたい寂しさが生まれ来る。たった一日会っただけなのに、言えないほどモヤモヤとする。
きっとそれは今度いつ会えるか分からないという所からきているせいだ。


「…切原、」
「はい?」


正直、切原と笑いあえる日がくるなんて考えられなかった。大阪に引っ越してしまったから切原にはもう二度と会えないと思っていた。
だから今日、こうして笑いながら話すきっかけを作ってくれた神様の遊び心に感謝する。


「腕が治るまで、待ってて。」


こんな言葉を切原に言える日がくるなんて思わなかった…そう笑いながら付け足せば、こんなこと言われると思っていなかっただろう切原が瞳をぱちぱちと瞬かせてながら返事を探していたが、切符を買ってきた2人にその思考は切り上げられた。

発車の時刻まで残りわずかとなり、改札をくぐりホームへ向かう皆が最後まで手を振ってくれる中で、眉根を寄せ不満げな顔をする切原が何を思っているのかなんて俺には分からないけれど。
俺はちゃんと笑って見送れたから良しとした。

彼らを乗せた新幹線が発車する時刻となった時、俺のスマホには一通のメールが届いた。
アドレスを交換して初めてもらったメールの内容に、俺はスマホを落としそうになった。




繋がりを得たお前




「赤也、なにニヤニヤしてんだよ。」
「べつになんでもないっすよー。」
「新幹線内で携帯を操作するとはたるんどる!!」
「弦一郎、お前の声の方が迷惑になっている確率85%…。」
「真田、五月蠅いから口にテープ貼っていいかい?」
「うちの部長達は怖いねぇ…。」
「仁王君、楽しんでいる場合じゃありませんよ…。」
「マジでテープ貼る?じゃジャッカルが…」
「俺かよッ!!」



「あいつ、アホだろ…なにが『ほれなおしました!また大阪いきますから!!』だよ…。」


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最後の方、長くてゴメンナサイ(笑)
何処かでは柳生とジャッカルに話をしてもらうつもりが
タイミング無かったという。

すみれ様、リクエストありがとうございました!
希望と違う場所やこうしてほしい場所ありましたら
是非言ってください!

2013,08,09


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