そして人類は俺だけになりました



大きな地球にたった2人の人。

大きな街も道も家も公園も学校もそのままに、人類はゆるやかに、そして確実にその数を減らし衰退していきました。

テレビでは「このままでは地球から人類がいなくなる」と臨時アナウンサーが叫んでいた。ただ、その放送ももう三カ月前の事。
誰も予言しなかった、誰も分からなかった、誰も止められなかった…そんな人類の衰退は今日も進んでいくのだった。


「すまんなぁ…。」


ベッドで横たわる老人の優しい顔が俺の瞳から涙を生み出し落とした。

最後の最後の本当に最後、俺はそれに選ばれた。

何処かにいるかもしれない誰かへ手紙を入れた瓶を海へ投げたこともあった、地図やコンパスを頼りに残された船を動かして他の国へ行った事もあった、けれども他の国では誰にも会えなかった。

この老人の事など俺は知らない。たまたま出会えた奇跡の人類、でもそれも今日で終わる。
彼は元々病気を持っているのだと俺に言った、それはもう進行が進み寿命が近いのだと教えてくれた。つまりは俺よりさきに死ぬのだとハッキリ宣告されてしまったのだ。

ぜぇぜぇと繰り返される荒い息、額に浮く汗を拭えば嬉しそうに微笑み俺の手に皺だらけの手を添えて。最後の温もりを味わいなさいと言いたげに真っ直ぐ見つめてくれて。


「最後に会ったのが…こんな老いぼれで…本当にすまない…。」
「…いえ、俺以外の人に会えただけで幸せでした。」


彼との時間、たったの9日。確かな時間を手にした。
人類が生み出した生活に必要不可欠となった電気も水道水もなくなり、空っぽに感じられる奇跡の星は価値を失う時が来たようだ。
誰かの温もりという代用する事が叶わないものの終わりと共に。


「君の…名前は…」
「…天城慎。」


頬を伝う涙の、生ぬるい事。

これが最後の他人の笑顔、決して忘れないようにと滲む視界でしっかり見届けて俺は広い広い青い綺麗な星に1人となった。
いや、誰かいるのかもしれない、が。ソレを探す気にもなれず、老人が息を引き取った家の裏手に穴を掘った。大きく大きく深く深く…そこに真っ白な布でくるんだ綺麗な老人の体を、そして幾つもの花を入れては土をかぶせた。
慣れた、ものだ。何度目の埋葬なのだろう。土を均して最後に木の棒をしっかり挿して手を合わせて、俺はそこから離れるのだった。

愛用の鞄には停止したコンビニから頂いた水と缶詰とか。ちょっとした食料しか入っていない。


「このままだと、俺も死ぬな…。」


退屈だらけになったこの世界を、1人で冒険するのは凄く大変だしつまらないだろう。
ならいっそ自分の最後を好きな場所で過ごしたいものだ。此処は日本で自分の生まれ故郷に比較的近い。

人類が終わりを迎える時、誰が喜ぶのだろう。

ボロボロになったスニーカーに鞭打ちながら家への道を辿る、からんからんと大きな鈴を鳴らし俺は此処にいるよと誰かに知らせつつ。


「俺以外の人はどこだろうね…。」


日が暮れかかった切ない景色が愛おしい半面、瞳を覆う涙が憎かった。


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2013,09,19


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