あ、声にだしてもーた。





「それ、美味そうすね。」


只今お昼休み開始19分と言った所。
急に3年2組に現れた後輩の財前君は俺の弁当の中に入っているアスパラのベーコン巻を指差す。
財前君の弁当も美味しそうなんだけど。というか朝のあの一件以来なのにどんな顔してどんな風に話せばいいのか分からないんだけど。

しかし助けを求めたくても蔵の机を囲む他の2人…。蔵は先ほど俺の眉間に寄った皺を伸ばすために撫でていたところを財前君に見られて(むしろ睨まれて)しまってから静かだ。
謙也にいたっては財前君に「先輩に認められへんからってどうでもええっすわ。あと声デカすぎとちゃいます?」と明らかにヒートアップして話していた内容を聞かれていたという事実に顔をコッチへ向けさえしない。
もう俺も弁当の味が分からない位に混乱しているってのに…。

それなのに財前君は、じっとアスパラのベーコン巻きを見続ける。はい、負けましたよ…。


「…あげる。」
「ほんまっすか?…なら、俺の唐揚げあげますわ。」


おおきに。そう言って財前君は瞳を細めた、どうやら喜んでいるようで。
出会いこそはなかなか理解しがたかったけど蔵の話しを聞いた後の今、財前君と話しをして友達になるのも悪くないって思う。
それに、謙也の話しでは無愛想と聞いたが俺の目の前に居る財前君は結構愛想が良いと…


「光、何しにきてんねん。」
「は?謙也先輩、俺の話聞いとらんかったんすか?」
「いや、聞いとったで。」
「じゃ何で聞くんすか?意味分からへん。ちょお近寄らんでもらえます?」


ざっくりと謙也を切り落とす財前君の顔は、そう無愛想だった。口の端をすこし下げて鼻で1つ笑って見せた。
あぁ、これは…まぁ謙也にそう言われても可笑しくないかも…。豹変ぶりに驚き彼の弁当箱へ移そうとしていたアスパラのベーコン巻きを落とすところだった、危ない。
そんな俺に蔵がやっと口を開いた、困ったように笑いながら財前君を見て。


「光はいつもこうやで?慎の前ではええ子やねんな。」
「…余計な事言わんといてください。」
「せやから部活見に来てくれへん?光、ようサボるねん。」


蔵の発言にグッと押し黙った所を見ると、本当の様で。謙也も口をそろえて「せやねん、サボんねんコイツ」と指差す。指さしちゃダメだぞ。
どうにも良くない流れになってきたような、俺は少し危機感を感じてしょうがない。とくに謙也の。このままではまた切り捨てられるぞ謙也、それに謙也は財前君とダブルス組んでいるんだ。2人の仲が今以上悪くなっては困る。


「く、蔵。邪魔にならないなら見に行くよ。」
「ほんま?おおきにな。」


いつもなら蔵は俺におおきにって礼を言った後、俺の方が背が小さいからか頭を撫でてくる。いつものように蔵の左手が伸びてきて…ピタッと止まった。


「……」


ちらっと蔵の瞳が動いて、財前君を見る。あぁさっきの様に凝視している。蔵は分かってしまったらしくソッと手を戻して弁当を食べ始めた。
なんとなくいつものソレが無くて寂しさを覚えてしまう。思わず蔵の手に似ていない自分の手で、頭を撫でてみる。蔵の手はいつもくしゃくしゃと髪を掻き交ぜた後、直す様に髪を梳いてくれる。
覚えている、けれど自分でやってみてもしっくりこない。

そんな俺の行動を3人は見ていたようで。
謙也は瞳を見開いて何度か瞬かせて、蔵は何処か嬉しそうに笑っていて、財前君は…


「っわ、」
「ま、しゃーないすわ。」


いきなりわしゃわしゃと撫でまわされる俺の頭。ビックリして瞳を閉じてしまうけれど、分かる。蔵の手よりも小さく、謙也の手より細い、これはきっと財前君の手。
少し乱暴気味に撫でた後、ソッと俺の髪を元通りに直していく。その手つきが優しくて優しくて、閉じていた瞳を開いて隣を見てみれば、


「…ほんま、可愛えっすわ。」




※あ、声にだしてもーた。


今日一番の笑顔。
財前君、やっぱり格好良い。だからこそ俺は思わずにはいられないんだ、なんで俺なんだろうって。
今聞いたって答えてくれないような気がして、ただただ財前君の言葉に顔を赤くすることしか出来なかった。


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昔々のサイトに眠っていた多分初めてのテニプリ小説。
何時書いたのか分からないし、
なぜ財前だったのかも分からないという。
…いや、財前好きですよ(笑)

財前のこういう話も書きたいとおもうけれど、
一氏の話しと被っているからなぁ…。
2013,08,12 salvage


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