「じゃあ亮、しっかりとねー。」
「……おぅ…。」


能天気に俺を見送る母さんからの無理難題を押し付けられ、文句をコレでもかと言ってやりたい所だったが…チーズサンドを用意しておくと言われたので仕方なく俺は頷いてしまっていた…食い物で釣られるって激ダサすぎるだろ。
大きなテニスバックのせいでもあるのだけれど、今日は一層肩が重い。

それは俺の左手が握っている小さな手のせいだろうけれど。







「あーん?」
「…本当に今日だけ頼む。」


部室に入ったら、レギュラー陣が勢ぞろいしていた。出てくるときに母さんと一揉めしたせいだろう、遅れた様で。いつもなら早い俺の到着を心配してくれていた長太郎とかが盛大に迎えてくれるなか、俺は暗い顔で部室へ、2人で踏み込んだ。


「宍戸さん、遅かったで…す……え、」


長太郎の言葉が掠れていくのに疑問を抱いた全員が俺の方を、もとい俺の左手を両手で握って足に隠れる小さいのに視線を向ける。
ちょこ、と顔をのぞかせるなり背の高い長太郎にビビったのか、パッと俺の左足に縋りついて顔をぐりぐり。俺よりは長い黒髪がくすぐったい。

俺からすればまぁいつも通りの光景なのだけど、何せレギュラー陣とは会ったことない
から摩訶不思議と言ったところだろうか…ってか、弟居ること言いそびれてたか?
多分言いそびれているんだろうけれど。長太郎が引きつった顔で俺の足に隠れた小さいのに向けて指差した。


「し、宍戸さん…その子…何処で拾ったんですか…?」
「バカか。弟だよ、弟の慎。」
「お、おとうとさん!?弟さんいたんですか!?」


大げさに叫んだ長太郎に更にビビったらしく、びくりと小さな体を跳ねさせた。おいこら、と長太郎を睨みながらしゃがんで目線を合わせれば、俺の足と言う顔を隠す場を無くして困っているらしく、あわあわと挙動不審になったのち俺の首に細い腕を回し抱きつく。
よしよし。そう背中を撫でていると、例の声が聞こえてきたわけで。


「あーん?何時から此処は保育園になったんだ?宍戸。」
「…実は、訳があって…跡部に頼みたいんだ。」


今日の朝の事だった。
急に母親は出掛けなくてはならなくなった、それも慎を連れて行けないらしく困っていた。父親は仕事、兄は出掛ける予定入り、俺は練習と八方塞がり。小さな慎を家に置いていく事は出来ない。
そこで。母親は俺に一日だけテニスコートの隅にでも置いてほしいとバカげたことを言ってきた。
それが今日の一揉め。そして俺は折れてしまい此処まで慎を連れてやってきたのだ。

着替えながら事情を話せば、何故だか知らないが長太郎は涙ぐみ、岳人は慎をお菓子で釣ろうとしていて、ジローはキラキラと瞳を輝かせていて、日吉はジッとその光景を見ていて、樺地は息が荒い忍足を抑えるので忙しそうだった。

そして肝心の跡部はと言うと。


「なんで先に連絡いれねぇんだよ。」
「いや、急な事だったから…。」
「あーん?」
「…本当に今日だけ頼む。」


俺から離れない慎を抱っこしながら頭を下げれば、周りからも擁護の声が飛んできた。おもに長太郎の声だけれど。あと忍足テメェ息荒いんだよガン見すんな変態が。


「良いと思います!今日と言わずに毎日連れてきてもいいと思います!!」
「くそくそ、クッキーじゃ釣れないか…じゃポッキーでどうだ?」
「ちいさE!抱っこしたいC!!宍戸ーパスー!!」


がやがやと盛り上がる外野陣に助けてもらっているような気もするんだけれども五月蠅すぎて困っていると、俺の頬に小さい慎の手がぺちりと当てられた。少し不安そうに眉を下げている顔は、周りの空気はいまいち分からないけれどいつもでは感じられない雰囲気に怖がっているようで。
ごめんな、と謝る情けない兄に一生懸命腕を首に回して力を込めてくれる。

話しの途中で慎の方を見てしまっていた俺に、クッと王様の笑い声が降ってきた。


「そんな子供を家に帰せと言うほど、俺様は鬼じゃねーよ。」
「跡部…。」
「いいだろう、ただし危ない目に合わないようにテメェがしっかり見てやれよ?」


今日ほど跡部に感謝した日はないと思う。あと忍足が本気で警察に突き出してやろうかと思った日もない。

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