越智さんの場合



ハンターってやつを実際に目の当たりにしたことはあるだろうか。
いや日本で見られるハンターというのは銃を使った猟をする人だと思う、だけど俺が言いたいのはそうじゃなくて…


「さしあたって問題はない。」
「問題しかないです…!」


獲物を自らの手で仕留める、ハンター。合宿に参加して間もなく、俺は一人のハンターに狙いを定められたのだ。
それは高校生の越智さん、どういうわけか事ある事に俺を狙ってくる。俺の何を狙っているのかは至って謎。とにかく狙われている、何かを。

今日だってたまたま廊下でばったり出会ってしまった、よりによって越智さんの傍には毛利さんがいない。毛利さんもまた俺を見る目が可笑しい気がするけれど、越智さんよりは何倍もマシだから気にならない。というか越智さんから俺を助けてくれるから味方にカウントしている。
つまり、森の中でばったり出会ったバンビとハンターよろしく俺と越智さんの追いかけっこが始まったのだった。


「越智さん、俺はこれから黒部コーチのお手伝いをしなくてはならなくて…」
「問題ない。」
「だから問題しかない!」


まぁ追いかけっこは早々に終わったけど。俺の脚はそんなに早くないし、廊下もすぐに行き止まりにぶち当たってしまったし。
手にしていた唯一の武器、ラケットバッグで身を隠しながら仁王立ちしている越智さんに行くべきところがあると話せども、相変わらずのお言葉。それ言えばなんでも片付けられると思っているに違いない。それは種ケ島さんが語尾に「☆」を付ければいいと思っているのと同レベルであって、種ケ島さんよりも性質が悪い。
だってそれしか言ってくれないのだ、何が目的なのかとかどういう理由があるとか何も言ってくれないのだ。毛利さんが聞いても絶対に答えてくれない、俺の何かを狙う理由。


「もー…なんでこんなことに…。」


でも、一つだけ分かることもある。


「問題ない、一緒に謝る。」


越智さんは俺が諦めると、何かを狙うのを止める。そして本当に小さく口角をあげる。
大きな体が、俺と視線を合わせようとゆっくりしゃがみこむ。長い前髪の隙間から除いた瞳は今日も、暖かい温度で俺を映しこんでいた。
試合中の冷たい温度なんてどこにも存在させない今の瞳に、俺は根を上げるだけ。追いかけている時だけは試合と同じ瞳をするくせに、諦めるとなるとコレだ。
いったいどんな狙いがあってこんなことを繰り返すのだろう、そのあたりは越智さんしか知らない謎であり秘密なのだと思われる。

そっと差し伸べられた大きな掌は静かに「黒部コーチのところへ一緒に行こう」と伝えてくる、重苦しいプレッシャーに押しつぶされそうな追いかけっこよりは手を繋いで歩いてくれる方が体に優しい…なんだか飴と鞭を巧みに使われているような気がする…


「へぇー…そうやって一人で悪者役と正義のヒーロー役をやっちゃうんだぁー…。」


そう思っているのは、俺だけではないらしい。
しゃがみこんだ越智さんの後ろから、なんだか黒い靄が見えてきたような錯覚。というか明るい茶色のくせっ毛と、明るいくせに地獄の底からやってくるような低くて重たい声は…。
「あっとー…」と気まずけな声を上げながら、ひょっこりと俺たちの間に入り込んで俺のラケットバッグを持ち上げた毛利さんは青い顔でひきつった笑みを見せてくれた。


「月光さん見つかんなくってー、みんなに頼んでもーた…。」
「…戦況に影響あり。」
「そうだよね、こんなに俺を怒らせたんだから相当の覚悟しろよ。」


なんでよりによって入江さんだったんだろうか…俺と越智さんと毛利さんの心が一つになった瞬間である。




越智さんの場合




「慎〜☆俺めっちゃ探すの頑張ったんやで〜…って、どないしたん?」
「なにも…なかったと言っておきたい…です。」
「顔が真っ青やし軽く震えとるけど…。」
「なにも、なかったです!」


「暫く戦況は不利になった。」
「あんだけ説教フルコースされてそれだけしかないんは流石やけど…。」
「…天城を諦める理由にはならない。」
「おー…俺、月光さんが色んな意味で強くて良かったってほんまに思っとりまーす。」


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なにをならっているか
それは誰にも
分からない


2014,08,30


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