潜む一つの
俺の幼馴染は、なんていうか忙しい奴。いやスケジュールがビッチリっとかって意味じゃなくてテンションの上がり下がり的な意味でね。
「はぁ…小春に会いたいわぁ…。」
「さよか。」
それを俺の家で言うのはなぜなんだろうか、というか制服のままってことは部活終わってからまっすぐ俺のところへ来たってこと?風呂入って飯食って髪乾かして宿題終わらせて出直して来い。
この幼馴染、一氏ユウジは非常に難しい奴だ。今日の朝会ったときは「小春とネタの打ち合わせあるねん!」ってウキウキしていたのに今はがっくり肩を落として俺の部屋で床にと同化するんじゃないかって感じで横たわっている。
金色、ねぇ。俺は好きだよ、金色。変な意味じゃなくてユウジを理解してくれているあたりかなり良い奴だし。それに性格も個性的でよろしい。
しかしその金色のせいでユウジが俺の部屋のカーペットになりそうなのは何とかしていただきたい。
「ユウジ、どうでもええけど先に家に帰りーや。おばさん心配するやろが。」
「おかんなんてどうでもええ。」
「うちに電話来るから困るねん。」
ほら、と蹴ってやるとこっちを見る鋭い瞳。まぁ生まれ持った顔がきつそうなだけで今の瞳なんて情けなく光をなくしているわけですが。つまり怖くない、というか見慣れた。
「お、お前には分からんやろうな…俺の気持ちなんか…。」
「分かろうとも思わんわ、邪魔やからはよ帰れ。」
慣れたやり取りをこなしながら、ユウジの腕をつかんで引き上げる。別に柔道の授業で習った寝技を決めてやってもいいけど、後で色々いちゃもんつけられるからやめておこう。
そのまま部屋の扉を開いてユウジの家まで廊下へ引きずってやろうか、という所で「ちょ、待ち!」とユウジが立ち上がって俺を止める。立ってくれるならば腕を離してやる、すると今度は腕をつかまれる番。
廊下へ出かかった俺を戻すようにユウジが力を込めて部屋へ引き込むもんだから、ため息吐きながらしたがってやる。本当に忙しい奴だ、落ち込んでいるのか焦っているのか困っているのか…どれだろう。
腕をつかまれたままなのも気にせずにベッドに座れば、ユウジは正面の床に座って俺を見上げてくる。その瞳は、弱弱しいのが少し吹き飛んで光を戻していた。
「お前、本気で俺のこと引きずろうとしたやろ。」
「当たり前やん。」
「相変わらず酷いやっちゃな!お前には血も涙もないんかい!」
「人の部屋で泣いとる方が悪いやろ。」
「俺とお前の関係やん!ええやろ!」
「お前がいちいち俺の部屋に入って来よって泣きつくってどんな関係やねん。」
一方的に面倒をかけられるこっちの身にもならんかい、とユウジの頭を叩いてやれば言い返す言葉もないのかグッと喉仏を揺らし黙り込んだ。まったくアホな幼馴染もったら面倒、というかこの後の話が長いのも面倒なんだよなぁ。
ユウジは話が長い、あんまり仲良くない人とは話さない分ため込んで、仲良い人に発散するから困る。その刷毛口はだいたい俺か金色なわけだけど。あぁまた始まる、まるで懺悔室に訪れた人の話を聞くかのような気持ち。
「お前、今日学校で俺のこと無視したやんけ!」
「せやな。」
「俺がどんだけお前のこと好いとるのか知っとるくせに!」
「せやな。」
なんでも言えばいいよ、俺は聞き流すから。
聞き飽きた何百回目、何千回目の告白。俺の軽い相槌に怒ったのか立ち上がったユウジが俺に覆いかぶさってそのまま二人そろってベッドへダイブすれば、ばふり、と音を立てて沈んだ。
力いっぱい首に回された腕の苦しさに我慢しながら、つらつら出てくるユウジがため込んだものを…俺はやっぱり聞き流す。
だってこんなものを一年中聞き続けたら爆発してしまいそうじゃないか。ユウジからの愛で体の中がいっぱいになって、いつか爆発してしまう。そんな気がするんだよ。
「むっちゃ好きやから、無視したら死なすど。」
「せやな。」
「俺ばっかこない好きになってどないすればええねん、苦しいねんぞ。」
「せやな。」
俺ができることって、話を聞き流してあげることと背中に腕を回すことくらいなんだよ。
それが俺とユウジの関係なんじゃないかな、今はこれでいいよ、まだお互い準備ができていないんだし。
もう少し、俺が大人になってユウジの言葉をすべて聞いていられるようになったら、関係は変わる。ユウジが求めるものにさ。
「あー、どないすればええねん…。」
それは俺も考えていたところだ。
「せやな。」
数億の嘘の中に
潜む一つの本音
「結局こうなるから嫌やねん。」
こいつ、家に電話して俺の家に泊まるとか言い出した。確かに明日は学校休みだけど、迷惑極まりない。てか俺のベッドの上で横になって金色に電話するその顔、めっちゃ笑顔。むかつく。
「ほんま、むかつくやっちゃな。」
さっきのキス、返してほしい。というか今までのキス全部とハグと話を聞きのがしている時間全部、利子つきで返してほしい。
金色との電話が終わったらしいユウジが俺を見るなり、ぱぁっと眩しい笑顔でこっちへ来いと手招き。あーぁ、今日も夜更かし決定か。機嫌が上がったユウジとの夜は長い。
もういい、未来のユウジにすべて請求してやろう。
「今日はなんの話しよか?」
「寝させんかい。」
「え?いきなり階段吹っ飛ばしてええの?俺がタチなんは譲らんで。」
「ちゃうわボケ、睡眠とらせろ。」
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ゆうたん。
(ユウジ誕生日)
2014,08,22
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