そんな日だから、



「つぎどっちだよ?」
「あの曲がり角右だって。」
「つーか代われよ…!」
「絶対にヤダ。」


中学三年生二人を乗せた自転車がガシャガシャと音を立てている、さながら息切れているようだ。
宍戸の自転車の後ろに立ち乗りで乗っかる俺が携帯片手に道案内、宍戸は重たいペダルを必死になって踏み倒している。おかげで汗が流れていている、もうそろそろ夏は終わるのにな。

近所のストリートテニス場が金網取り換えるだか何だかでお休みになってて、侑士に「ストテニやってねぇ(`3´)」ってメールしたら他にもあるからそこへ行けと教えてもらった。しかもそこに侑士とかみんな居るんだってよ。
自転車で俺も行きたかったんだけど、運悪いことにこの間パンクしちゃって。ついでにフレームが汚いのとか籠がゆがんでいるのとか直してもらおうと数日の間、お店に預けちゃってたんだよ。おかげで今2ケツ、でも俺立ってるから1.5ケツ。おまわりさんに会いませんようにー。

速度を落として曲がり角を右に、落っこちないように宍戸の肩をつかむ手に力を込める。じんわりと服を通して伝わる宍戸の汗が俺にも飛び火、こめかみから一筋の道が作られていく。
漕いでいない人間ですら汗が噴き出る、もうそろそろ暑さも撤退するはずの季節。どういうわけか今日は夏の空。


「あっちぃ!お前あとでなんか奢れよ!ただで働かせるとか激ダサだからな!」
「まじ?俺の財布の中を知っていってるのか?財布の中83円!」


なんでだよっ!!と宍戸が俺の方を見上げてくるので、笑って言ってやる。「この前、あたらしいゲーム買って服買って漫画買っちゃった。」と。
そうすると呆れた、けれど納得と言わんばかりの顔で「あー…」と返された。長いこと一緒にいるせいか俺がお小遣いのやりくりが下手なのはご存じ。そうだ、今月も金欠です。でも安心しろ、家にはまだ1000円あるから。

まぁこんな暑い中、頑張って俺を乗せて自転車を進ませていく宍戸には感謝しているとも。ただその思いをお金では返せないだけさ、言葉は安っぽくて忘れっぽいけれど今はそれで勘弁してくれないかね。


「でも宍戸、ありがとな。暑いのに頑張ってくれちゃって。」
「あ?なんだよいきなり。」
「お金はないけれど、感謝の気持ちはあるってこと…あ、そこの信号を渡った先にあるって。」


照れくさい言葉ではあるけれど、こういうのは素直に言わないと伝わらないものだ。あいにく信号は俺たちを待ってはくれなくて、チカチカと点滅して赤信号へ色を変えてしまう。
ブレーキを徐々にかけて、縁石より歩道側にしっかり止まった宍戸の足が地面に着いた。バランスが少し崩れて俺は腰を下ろして、振り返った宍戸の汗が顎にたどり着くのを眺めた。汗だらだら、それが、どうしてか、綺麗。


「…お前が素直だと、なんか激サム。」
「うわーぉ、宍戸ひっでー。」


なのに宍戸はいつも通りに俺をいじめる、そうやって冷たいこと言うのやめろよなー。
でもそれがどこか嬉しいよ、肩に乗せていた手を宍戸の腹に回した。くっつけば汗の匂いが鼻の奥へ届いてくる、くっついた体からもジンワリとした熱が伝わってくる。
嫌がらせ含めた冗談半分、そして触れたかった本音半分。俺は宍戸の背中に頬を当てた。


「宍戸、着いたら団扇で扇いでやるから。」


チカチカ、信号が点滅するのが見える。もうすぐ青信号に変わる。
動き出すだろう自転車に備えて宍戸の熱から体を離し、立つ準備を。腹に回していた手を肩に置いて立ち上がれば、宍戸の顎先まで流れ着いた汗がぽたりと落ちたところだった。
そして信号がぱっと色を変えた、地面についていた足をペダルにかけて…力を込めて漕ぎ出す前に、


「扇ぐより、」
「おう?」
「労りのキスでいいぜ。」


とびきりなオネダリ、否、可愛げの欠片も破片もなにもない王子様の命令。
俺が何か言うよりも先に動き出した自転車に、俺は落ちないようにするだけで今は精一杯。どうしてそんなこと言うんだよ、バカみたいだ。あぁもうこれ以上深みへ落ちて行っても何もしてあげられないのに。
顔が熱い、太陽のせいでも撤退命令を聞きのがした熱のせいでもない、これは惚れた弱みのせいなんだ。

携帯をポケットにしまって前だけ見た、下を向いたら視界に宍戸を捕らえてしまうから。こんな格好悪いところ見てほしくない。もうすぐこの暑さも終わってくれる、撤退する夏が連れて行ってくれるに違いない。
やっと見えてきた侑士が言っていたストリートテニス場、早く着いてほしいけれど、着いてほしくないなんて複雑な気持ち。


「宍戸さー熱いの、好き?」
「は?」


なんとなく、そう思っただけ。




蝉の声も聞こえやしない
(そんな日だから、暑い)




「相変わらずイチャイチャしながら来よって…。」
「うっせ。嫉妬とか激ダサだぞ。」


「ジロー起きろー、せっかくジローに会いにきたんだぜー。」
「ん〜…あと5分だけ〜…。」
「ぐっはかわいい!!マジ俺の天使!!」


「…」
「し、宍戸さん…!」
「嫉妬は激ダサ、やんなぁ。」


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ししたん。
(宍戸さん誕生日)


2014,08,22



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