密かに



「もー無理だろぃ…。」


山と積まれた宿題の数にブン太は机に伏せギブアップ、と両手を上げた。
わざわざ幼馴染を家に招いて「教えろ」と命令してきたとは思えないほどあっさりとやる気はなくなったようで。


「そう言われても。」
「無理、無理だろぃ。この量を冬休みだけで片付けろって無理だろぃ!!」


全教科からでた宿題の数々は数えてはいけないと思うほど、確かにあるんだけど。そしてソレを諦めるブン太の気持ちもよく分かるんだけど。
しかし、山とある宿題を片付けることが出来てしまう人間が目の前にいるんだから諦めるのは早すぎというものじゃないだろうか。あと俺のほかに柳も柳生も終わらせていたよ。
でも「写させろ」と言わない所は尊敬するけど、こうも諦めが早いと寧ろ俺から「写しなさい」と言いたくなる。

数学のページに殴り書きされている答えは間違いじゃないから、そのままの調子で頑張っていただきたいんだけど…とりあえず、止まっている手を促すために次の問題をシャーペンで指し示す。


「ほら、この問い3はさっきの…」
「き、休憩!」
「始まってまだ1時間。」
「…じ、じゃ数学を止めて国語にしねぇ?」


せめて得意な方を…とでも言いたげに俺を見上げるブン太は若干涙目で。その辺は個人の判断にお任せするけれど、せっかく数学の波に乗りだしたんだから此処で教科を変えたら…とは思う。けれど、まぁ言わない。
だってブン太がどうやって生きようがブン太の自由だし。俺が早々に宿題を片付けたのだって俺の生き方。幼馴染の俺を呼んで勉強を教えてもらうのを選択したのだってブン太の生き方。


「国語にするの?」
「…お、おぅ。」
「いいよ、とにかく少しでも進めよう。」


早く数学をしまって国語を出せ。そう言って俺は氷が溶け切ったお茶を飲みほした。
こんな調子じゃ数日かけないと終わんないんだろう、まぁいつも通りといえばいつも通り。


(ブン太もブン太だよな。)


いつもいつも、こうなるのは分かり切っているのにどうして先手を打たないんだろうか。先に予習しておけば数学なんて楽なもの。英語だって英単語覚えておけば、何も覚えていないよりは幾分かマシ。
だから宿題が出される前から俺は「予習しておけよ」と釘をさしているのに。コイツは「へいへい」と軽い返事をして何もしない。俺に寄りかかるような生き方、これで大丈夫なんだろうか。


(高校、別になるのに…。)


俺は立海から他の学校へ行くことを目指している。将来的にその方が良いと先生たちに勧められた。
まだ言えないでいる真実の時は刻一刻、近づいてくる。でもあっという間にやってきてしまうのだろう。卒業までは秒読み状態、それまでにこの幼馴染を何とかしないとな。

机に広げられた国語の宿題の量にも唸っている今は頼りがない赤い髪の幼馴染は、いつしか俺が居なくても生きていけるように…ちゃんと格好良い立派な奴になってくれるはず。


「期待しているぞ。」
「…へ?」
「しょうがないから今日からブン太の宿題消化の日々だ。」


数えるのも嫌になるほどの宿題が、増えて増えて増えて終わりが無くなればいいのに。
毎年やってくる長い休みの宿題期間が楽しいと思える日がやってくるなんて、誰が思うのだろうか。


「終わったらなんか奢ってやるから頼んだぜぃ!!」
「はいはい。」


いつもソレ言うけど、奢って貰ったこと一回しかないんだけど。分かっているから期待はしないししようとも思わないよ。
止まりかけのブン太の手をシャーペンで優しく突いて先を促せば、得意という割には分からないと笑いかけてきてもう頭が痛くなりそうだ。
毎回恒例、泊っていくコースに入ってしまったかも知れない。




そうして
 エンターテイナーは
   密かに笑うのだった




「もしもし、赤也どうしたんだよぃ。」
『ちーっす。丸井先輩、宿題終わったっすか?』
「いや全然。助っ人呼んでんだけど…進むスピード遅すぎて寝ちまった。」
『あの幼馴染のっすか?いいなー…そっち行ってもいいすか?俺も全然進まないっす…。』
「んー…俺が終わったら貸してやるから今は駄目だろぃ。」


二人っきりで過ごしたいが故の生き方だって、この世にはあるってこと。


「知らねーんだろうなぁ…。」


馬鹿のフリも疲れるもんだろぃ。


----


掌握しているつもりで
エンターテイナーの掌の上で踊る。

2013,12,24



(prev Back next)


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -