眠る



此処は俺にとって世界で一番安心できる場所、世界で1つの奇跡の場所。


「おい、朝だ。いい加減に起きろ。」


チチチ…愛らしい小鳥の鳴き声を広くてふかふかのベッドの上で聞いてれば、寝たふりがバレているらしく景吾が不機嫌そうに俺の手を引いた。
久方ぶりに出会った従兄弟は、ご両親によく似て美しく気品に満ち溢れていた。昔と変わらないプライドの高さと負けず嫌いでこの世に一人だけの生きている宝石。


「…んー…」
「朝ご飯が出来ているぞ。着替えろ。」


薄く瞳を開いてみれば、もう私服に着替えている景吾。いつ起きたんだろうか、とベッドの空きスペースを眺め手を伸ばせば温もりは残っていない。結構前から起きていたんだろう。


「起きた時に起こしてよ…。」
「あーん?声をかけたのに起きなかったのは何処のどいつだ?」


俺は昔から寝起きがよろしくない、低血圧で眠りがとても深い。一度眠ってしまったらそう簡単には起きない。
そのせいだろう、景吾が声を掛けてくれたのに気付かないなんて…そういえば、昨日は飛行機の中でろくに眠っていなかった事を思い出した。なんとなく眠れなくなってずっと音楽を聞いていたんだった。

繋いでいた手を引かれて、ふぁ…と欠伸をしながら上半身を起こす。ボサボサになっているであろう髪をあえてくしゃくしゃとかき混ぜる。あーぁ、景吾のベッドは景吾の匂いがして安心しすぎてしまうから駄目だ、結構寝たはずなのにまだまだ眠れる。
しかしお腹は空いている、今にも「ぐー」となってしまいそうだ。景吾の家のシェフさんはとても美味しい料理を作ってくれるから起きよう。


「ねー、服とって。」
「…何処だ?」
「キャリーバッグのなか。」


一応起きて着替える気はあるからか、景吾がベッドから離れ床に置きっぱなしにしていた無駄に大きなキャリーバッグの方へ歩いて行く。中は着替えとかゲームとかばっかだから見られても特に問題ない。

しかし、景吾の部屋は本当に一等地だと思う。
窓から差し込む朝日、窓から中庭が見える、いつも綺麗な部屋、特注品のベッド、職人技が光る丁度品の数々…なんて贅沢な空間なんだろうか。
居心地のよさは俺の自宅よりも上だと思う、俺の家も相当資産家だけど景吾の家ほどじゃないし、何より親は仕事とかで忙しくて家に帰ってこないから広い家に俺一人だし。


「服をゲーム機の下にいれんじゃねぇよ…!」
「そうだっけ、ごめん。」


ふと物思いにふけていれば、俺の荷物の詰め方が悪かったらしく床にドンドン物が置かれていく。あれ、そんなのいれたっけ?とぬいぐるみが出てきた時に思ってしまった事は秘密。うーん、やっぱ慌てて荷物を詰めたからかな。
景吾がキャリーバッグの中に入っている物と戦っている間、悪い話また眠くなってきた俺は、欠伸を1つ。そしてその眠気に素直なまま、ベッドへ倒れこんで景吾が使っていた枕を抱きしめた。

この家は、景吾の部屋は、どうしてこんなにも居心地がいいんだろう。もっとずっと居たくなって辛いほどに。
思い出もいっぱい詰まっている部屋に感じる懐かしさを枕と一緒にいっぱい抱きしめていれば瞼はそろそろり、降りてきて。


「ったく…おら、出てきた…あーん?」


従兄弟が俺の服を引っ張り出してくれた時には、また夢の中。
此処は俺にとって世界で一番安心できる場所、世界で1つの奇跡の場所。


「相変わらず俺様のベッドで寝やがって…。」


景吾、従兄弟同士って結婚できるんでしょ?そのうち日本に帰ってきたら結婚しようよ。だって小さい頃に約束したじゃん、俺のこと女の子だって思っていた時だけど。それとも、女の子じゃなきゃ駄目なのかな?
俺は景吾がいいの、女の子とか男の子とかじゃなくてただ景吾って言う人間がいい。




私の心臓は
  此処で眠る




また日本観光できねーんだろうな。

夢の中まで聞こえてきた従兄弟の呆れた声に、俺は小さく頷いた。
別に良いんだ、俺はほかなんて知らなくったって。ただ景吾さえ居てくれればいいんだ。
心臓は緩やかな鼓動を奏でるばかりで苦しさや痛みなど無縁だと言いたげに呑気に一定のリズムを奏でるだけ。


「あんまり無防備だと、食っちまうぞ。」


そんな心臓も、景吾にキスされた時だけは、のんびりしてられないみたいだけど。
唇に触れる情はどんな情なんだろうか。願わくば、愛情でありますように。


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はろー
まいはーと


2013,12,24



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