のち



ズルイ人を知っている、とてもズルイと思う。一緒にいても離れていても、その人は俺の頭の中に種を植え付けやがったから忘れる事が出来ないのだ。

だからやり返したいと何時からか考えていた。

両の掌で隠せる程度の小さな箱は綺麗に包装紙を包まり、白いリボンをくるりと巻いて。珍しく人が少ない駅のホームのベンチ、今にも降り出しそうな空から守る様に掌で隠してやれば、その上に乗せられる俺以外の掌。


「なんだよ。」
「プリッ。」


俺の隣に許可なく座っているズルイ人こと仁王雅治は聞きなれた謎の言葉を口にしながら力を抜いたようなへにゃりとした笑顔。
あぁなんて能天気な奴、乗せられた手を払ってしまえば少しはその笑顔も変わるだろうと行動に移す、バッと手を払いベンチから立ち白線ギリギリまで前へ出る。


「まだ来ないぜよ。」
「知ってる。」


まだ列車はやってこない。知っている、隣の駅だかでトラブルだかどーのこーので俺達が待つ駅まで来る見通しが立たず。お陰さまで家に帰れない。はぁ、息を吐き出せばほんのり白に色づく。
「座っときんしゃい」と仁王の声が俺へ飛んでくるが、掌の中に収まる小さな箱に触れてほしくなくて座りたくない。しかしこの箱はどの道この男へ渡るもの。


「頑固じゃな。」
「ほっとけ。」


さっきから投げつけるとがった言葉も、仁王からすれば可愛い物らしくことごとく笑われる。どうやら機嫌を良くしてしまっているらしい、意味わからないけどそうらしい。
はやくお風呂に入って眠りたい、つま先が冷たく、耳が痛く、指先がジンと、頬や鼻も真っ赤になっているだろうその顔で覚悟を決めて仁王へ振り返れば、ベンチにどっかり座って俺がさっき座っていた場所をポンとたたく。


「素直じゃないのう、ええから座りんしゃい。」


あくまでも余裕な仁王が笑う、本当にズルイ人。
悔しいという思いと何処かにあるプライドがぐちゃぐちゃ混ざった不思議な気持ちは、自然と俺を次の行動へ導いていた。


それは掌で隠していた箱を、投げつけるというものだけど。


少し振りかぶって思いっきり投げてやった、指先から箱が離れると同時にホームに響いた駅員さんの「大変長らくお待たせいたしましました…」と列車が動きだしたのを告げるアナウンス。ソレが終わる前に箱は笑みを消した仁王にキャッチされた。


「っ…いきなり、」
「列車が来るってよ。」


流石に驚いたようでパチリパチリといくつかの瞬きをして見せる仁王に、俺はこの駅に来て初めて笑った。「ざまぁみろ」と言ってやれば、してやられたと肩をすくめ立ちあがりコッチへ歩いてくる。
箱のリボンを軽く引っ張るその指が男にしては綺麗で長くて繊細で。どうしてかさっぱりだけどソレで怖くなった、なので仁王が隣にやってきたついでにリボンを俺が抜き取ってしまう。


「ピヨッ…」
「俺、仁王の事は嫌いじゃない。」
「…つまり?」


列車が駅へ侵入すると告げるアナウンスを聞きながら、もう話したくはないと抜き取った白のリボンに口を寄せる。
ガタンゴトン、ゆっくりと俺達の前へ止まった列車のドアが開いたなら、もうソレはそこまでにして。リボンをひらりとなびかせながら車内へ足を踏み入れた俺。後を追ってこない仁王。

空は曇天、焦燥感に襲われそうな不安定なその色に焦らされたか、俺は一番ドッキリするだろう秘密を暴露する。


「箱の中、空っぽだから。」
「は?」
「誕生日おめでとう。」


ドアが閉まります、ご注意ください。
アナウンスに逆らうように伸ばされた仁王の手を、本日二度目、パシリと払いのけた。完全にドアが閉まり切ったのを確認し、俺は笑って唇を動かす。


『まさはる』


俺はズルイ人を知っている。俺の心をいっぱいにして困らせる悪い奴なんだ。
だからやり返してやるって何時の日からか考えていた、お前も俺と同じ思いになればいいんだって。


「…それは、ズルイじゃろ…。」


ガタンゴトン、動き出した列車を最後まで見送った彼はその場にしゃがみ込んでは箱を包む包装紙を悴んだ手で必死に開けた。
中は確かに空っぽだった、ただ底に1つのメッセージだけが存在していた。




曇りのち雪(40%)




ガタンゴトン、緩やかな揺れにいつもなら眠気を誘われる所だが今日は手にしているリボンがそうはさせなかった。次会ったときはどんな事をして驚かせてやろうか、今から楽しみだ。
仁王が変装などをして楽しむ理由が分かった気がした、俺は笑いながら外を見る。


「あ、雪。」


チラリと見えた小さな白い結晶に、やはりズルイ人を思い出してしまった。


「…白い、のう。」


それは顔を上げた彼も同じで。白い結晶を見ては白いリボンを奪って行ったズルイ人を思い描いていた。



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におたん
(仁王誕生日)

2013,11,21


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