トゲ
トゲ、トゲ、トゲ。
このトゲを抜いたらどうなるのかな?
「泣いているの?」
周助さんはトゲを刺してくる、そのせいで痛い思いをしたこの一年近く。
親友の裕太が青学からルドルフへ転校して俺はとても悲しんだ、それはもう転校すると聞いた日は涙で枕を濡らしたもんだ。
だって小学3年くらいの時からの友達で、俺の事を一番分かってくれていたから…まぁ一番分かってくれてなかったけど。
裕太が寮へ引っ越す日はわんわん大泣きした、そんな俺を周助さんは慰めてくれた。一日中泣く俺の家に泊ってずっと「また会えるよ」と優しく笑ってくれた。
そんな日から一年近く、その時の俺はそれがトゲだと知る由もなく。
「ねぇ、出ておいでよ。」
周助さんはどんな時も優しい声で俺を呼び優しい声で話す。とても、とても、優しい。
でもそれすらトゲ、全てトゲ。今だって周助さんの部屋のベッドの上で布団にくるまる俺を布団ごと抱きしめることすらトゲ。
ぐさぐさぐさ、次から次へと刺さる刺さる。痛いよ周助さん、もうやめてトゲなんか要らないよ。
どうしてこの人はこんなにもトゲばかり俺にくれるのだろう。裕太を忘れられない俺に、トゲをたくさん。
「知っていたよ、けどどうしても言いたかったんだ。」
またグサリ、刺さるトゲ。やめてよ話さないで。
「裕太のこと…好きだったんだよね。」
痛い、痛いから。もうトゲが刺さる場所なんかないのに。
「でもね、僕もソレと同じ…いやソレ以上に君が好きなんだ。」
「…っ、」
今までのどんなトゲよりも大きなトゲが、先に刺さっていたものを押し退けてまで俺の心臓に刺さった。
全てを知っていてそんな事を言うから、俺は周助さんが嫌いだ。
痛い思いしかさせてくれない周助さんが嫌い。
でも本当は周助さんの言葉も行動も全てトゲなんかじゃないって知っているよ。
俺が裕太の事を諦めきれないだけ、そのせいで周助さんがくれる優しさ全てを苦しみと痛みを与えるトゲへと変えてしまっているだけ。
俺の思いも知らず離れた場所で寮生活を送る裕太と、傍でたくさんの愛をくれる周助さん…幸せはどっちで得られるのだろうか、なんて。
子供の俺でも、分かるよ。
だから今日もトゲまみれ。
咲かないサボテン
サボテンと写真が好きだという周助さんの部屋。何度も遊びに来た部屋。そこに来るたびトゲが増えて、部屋に飾ってあるサボテンの一つになってしまったような錯覚を感じ不安になっていた。
このトゲを抜いたら、どうなるのだろうか。
「…もう、周助さんなんか嫌いだ…。」
「知ってる。」
トゲを放った、つもり。
でも声は涙を堪えているとバレるもの、か細くて震えていてハッキリしない。そんなはずないのに…この想いはいつまでも1つであり続けるはずなのに。
スルリ、布団を優しくはぎ取られ体を丸くしたままの俺が露わにされる。かたつむりごっこは終わりだと言いたげなおい剥ぎ…見えた周助さんはどうしてだろう、今日は一段と優しい笑顔で。だからまた刺さるトゲが1つ。
「僕のこと嫌いでいていいよ。その分、僕は好きでいてあげる。」
トゲを抜いてしまったら、大事な親友を忘れてしまいそうで怖い。だから臆病者の自分は今日も全身トゲまみれ。
たとえば裕太が俺の事を好きだったとしたら、このトゲは何処かへ飛んでいくのだろうか…もしかして周助さんへ飛んでいくのだろうか。
それを考えたら、周助さんが可哀想だった。積み重ねてきたこの痛みを一度にその身に受け止める?そんなの…俺なら耐えきれないよ。トゲに全てを吸われシナシナに枯れてしまいそう。
だからといって、同情の恋なんて周助さんは望まない。
「嫌い、嫌いだ。」
「フフッ…好きだよ。」
また頑張ってトゲを飛ばしては跳ね返される。何処までも頑固な人だ…って、トゲだらけの俺が言うべき言葉じゃないよな。
のそっと体を起こせば頭を撫でられた、大泣きしたあの日も周助さんはこうして頭を撫でてくれたっけ…。
窓辺に飾られている周助さんの愛情をたっぷり受けたサボテンが綺麗に花を咲かせているのを見て、俺もそうなるのかな…なんて不安になった。
花を身につけないただのサボテンでありたい。
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片思い片思い。
こういうの
大好き。
初めての不二兄でした。
2013,11,19
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