刹那の奇跡





刹那、それは奇跡の瞬間である、俺はそう思っている。

まずはテニスコートの中で楽しそうにテニスの練習をしている切原赤也、俺はコイツが大っ嫌いであると言いきろう。
どれくらい嫌いなの?と聞かれたら答えましょう、手を振ってこられたら睨み返し、話しかけられれば嫌な顔して逃げ、笑顔でこっちに近付こうものなら…


「先輩、俺の事ばっか見てどーしたんすか?」
「あ゛?」


どこから出ているのか自分でも不思議に思ってしまうほどの声が出るほど。
お腹からでているのか?それとも喉か?…あぁ、本能なのかもしれない。ま、それくらい嫌っているのだ。
嫌っている理由は聞かないでほしい、本当にイライラするから。思い出しただけでもイライライライラ。

最初は俺の本能からの声に驚いて苦笑いしていた切原も、今は聞きなれたのかヘラヘラ笑いながら練習から抜けだし俺の傍へ寄ってくる。やめろこっち来るなよ、真田副部長、幸村部長、切原は此処です連れて行って下さい。


「先輩って、案外俺の事好きですよね。」
「自意識過剰、気持ち悪い。」
「あれ?気づいてないんスか?」


赤くない瞳を細めてくすくす笑う切原から逃げ出したくて顔をそむけた。その次は足を動かそう、として切原に右手を捕まれてしまう。いつもこうだ、切原から逃げようとする俺は簡単に捕まってしまう。今日も失敗、昨日も失敗、その前もその前もずっとずっと。
なんでだよ、睨んでも本能からの威嚇の声もコイツは気にせず、寧ろより一層笑顔を増して俺を捕まえる。
そう、


「一瞬も他のレギュラーの事、」


俺の心の秘密を引っ張り出すために。


「見てないじゃないですか?」
「っ、」


俺は今日もその笑顔に捕まった。そのままコート内のベンチに連れていかれて「終わるまで待ってて下さいね」なんて手を振られて。
あぁ今日も嫌な一日だ。今日も今日とて牢屋の中で切原の監視の下、俺は切原だけを見る仕事を始める。

逃げだせばいいじゃないかって?
そんな当り前かつ正論を言わないでくれよ。

逃げられないんだから。どんなに遠くへ逃げようったって、切原は俺を追いかけてくる。どんな理由で離れてみたって、切原は諦めないんだから。
このモヤモヤする晴天の下、俺は溜息一つ空へ投げかけた。


(嫌いじゃないんだよね…)


性格とかしつこいのとか馬鹿なのとか全部嫌い。本当に嫌い過ぎて困るほど。

ただ、ただ俺は昔見た刹那を探しているんだ。

初めて切原を見たときに感じた一瞬にして永遠の刹那を。
コートの中で笑顔でボールを打ち返すその姿に、他のどんなものにも感じられなかった刹那を見たんだ。
心臓の次の鼓動までの時間が嫌に長かった、次の酸素を肺へ送るのか要らなくなった二酸化炭素を吐き出すのかわからなくなった、瞬きとはなんぞや?と思わせられた。

あぁ、あの時見た君に会いたい。

だから今日も切原を見つめ、切原に捕まって。


(だがこれを恋とは呼びたくない。)


切原に恋心なんて、冗談じゃない。
頑固な俺は奇跡の瞬間を認めるけれど、


「切原だけは認めない、か。」




刹那の奇跡




ゆっくり瞳を閉じれば、あの時の君がいる。
今日みたいな晴天の日だった、きらきら輝いていた。
幻の君、もう一度会いたい。

こんな話、切原に言ったら「じゃあずっと俺だけ見といてくださいね」って言われそうだから言わないけれど。
そんなこと言われるくらいなら、自分自身に嫉妬していてほしいし。

………恋じゃない、こんなの恋じゃないんだからな。


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生意気な赤也好きです。
ツンデレ気味な主でスイマセン、あと
意味わかりにくくてスイマセン。
2013,06,05



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