危険



※財前の従弟←白石


なぁ、光。自分のテニス部の偉い人、むっちゃ変態やん。


「おあー…。」
「あのエクスタ馬鹿…。」


靴箱の中にパッと見じゃ何通入っとるのかよう分からんほどの手紙に、毎朝のため息。そして隣に居る光の悪口、いつも通りやから部長さんへの悪口はどうも思わへん。
俺は光と同じ色の真っ黒の髪を少しかき混ぜた。どんくらい黒いかっちゅーとブラックコーヒーなみやで。普通?光がそう言うねん。


「毎日毎日、飽きもせんでようやるわ。」
「ほんまにな。」


靴箱いっぱいの手紙、コレ全部一人の人がやったことやねんな。隙間なくみっちり入れられとるから共犯者がおるんやと思っとったんやけどちゃうんやって、おっそろしいでー。
犯人は知っとるし大量の手紙一つ一つに返事するつもりもない…ちゅーか光が「そんなんしたらお前のスマホ割ったるからな」って脅しよる。それどころか触るんもダメやって言われとる。
やから俺は俺の上靴を隠す手紙を光が雑に掻き出してくのをただ眺めるだけ。いや光がなぁ…ダメって言うねん。せやからせぇへん、面倒くさがりちゃうから。

昔っから光の言う事はだいたい正しい。やから俺は従う。

けど、手紙を床に落としてくんは…なにかちゃう気がする。まぁ恐ろしいと思うねんけどな?せやけど時間かけてせっせと用意してくれはったもんやん?なんかなぁ…心が痛むねん。
いやあかんって知っとる、やって相手はストーカー予備軍やし。優しくしたらあかんねん。でもこうして考えてまう、光にばれるって知っときながら。


「お前、いま部長のこと考えよったやろ?」
「え?なんで?」
「あそこで隠れとった変態が目を輝かせ始めたやんけ。」


ほらな、バレとる。
馬鹿を見る顔で光が俺の後ろを指さした、光の顔が般若や。眉間のしわが過去最高急に深い、同い年で従弟のくせして恐ろしい顔しよる…それを見とるのが辛くて後ろを振り返った。

そしたら、それはそれで見とるのが辛い顔。

靴棚の蔭から顔を覗かせとるテニス部部長さんの笑顔。四天宝寺でも有数のイケメンの嬉しそうに蕩けよった笑顔、そういう顔になったわけを知っとる女子でもついつい顔を赤くしてまうほど見惚れてまいそうなソレは、手紙の差出人やと忘れそうになってまう。
なんであんなイケメンが俺の靴箱いっぱいに、それも毎日手紙入れよるん?…こないな質問は野暮っちゅーもんか、馬鹿でも分かるわ。

部長さん、俺と目が合うと隠れるのを止めて笑顔のまま俺たちのところに軽やかな足音をお供にスキップしながら来はる。
それはちょお怖いで、と思っとったら光が俺の腕ひいて立ち位置変えた、俺と部長さんの間に光、俺の視界全部光の背中。だらだらとやる気なさそうな従弟の、背中。


「人の恋路を邪魔したら馬に蹴られてまうで?」
「従弟を変態に渡すくらいやったら、馬に蹴られた方がマシっすわ。」


足音がなくなったと思ったら部長さんの声、優しそうな声やのに棘がある言葉。光のこと嫌いなんかな?光は光で嫌そうなんを一切隠さんひっくい声で本人目の前にして変態呼ばわり。その勇気、ほんま尊敬してまうわ。
これでよう一緒の部活に居れるなぁ、尊敬してまう。でも二人が仲悪いと謙也先輩が可哀想やねん、いっつも困った顔しとる謙也先輩は俺のこと助けてくれよるから俺も謙也先輩助けたいねんで。まぁ無理やねんけど。

光の後ろに居るから、今の光の顔が般若か鬼かどうなっとるのか分からんけど部長さんの笑い声は聞こえてくる。楽しそうな、嬉しそうな。こない状況でよう笑えはるなぁ。


「まぁ、ええけどな。隠しても声は聞こえるやろうし。」


おん?聞こえとるよ、部長さん。ちゅーか光が手紙踏んどるんやけど大丈夫やろうか?
手紙なんて気にしたらアカンって光に言われとるけど気になってまう…なんて、下向いて手紙眺めとったら、光が身体ごとむっちゃ勢いよくこっち振り返った。え、手紙のこと気にしとるのばれてもうた?
般若の標的が俺になってもうた、焦って上を向いたら光の顔は般若やのうて…家で見る従弟の顔。俺の悪戯で焦った時の顔。そんで、光の肩越しに見えた、優しいミルク入れすぎてもうた紅茶の色。


「今日も愛しとるで、また後で会いに行ったるからな。」


俺の耳は、光によって強制的に機能を封鎖されてまう前にその言葉を受け取ってしもうた。光の手に覆われてもうた耳に、届いた言葉。
あれ、これで何度目の告白やろう。200回を超えた直接言われる部長さんからの告白は、手紙を入れると1000回を優に超える。それでもまだ言い足りなそうな顔しはってから、口を動かして手を振る。そんで視界から消える。最後はなんて言うたか分からんかったけど…きっと「ほな、後で」やと思う。


「…っち、あの変態…。」


あ、光。今のは聞こえんでも口の動きだけで分かるで。また悪口言うたんやろ?ほんま口の悪いやっちゃ。

ん?告白の返事?それは光も謙也先輩もしたらあかんっちゅーてるからせぇへん。これまでも返事したことあらへん、それでも…部長さんは何回やって言いに来るし手紙を書く。


「俺、なんかお姫様になったみたいやな。」
「ドタマかち割ったろうか。」


おん、今たぶんおっそろしいこと言われた。




ミルクティーと
コーヒーは
混ぜるな危険




「…光は一緒やないの?」


一週間後。
寝坊してもうた光を置いて、俺は一人で登校してもうた。
靴箱はいつも通り隙間なく入れられた手紙で上履きが見えへん、これを見たら光は悪口言う…けど今日はちゃう。
靴箱の前に来るなり、降ってきたのは聞きなれた…でも聞きなれへん部長さんの声。また蔭に隠れとるんかなぁっていつもの方を見れば、笑顔やなくて瞳を丸くさせた部長さん。

光、話しかけられてもうたよ。でも光が寝坊する方が悪いねんな。俺は不思議な解放感でちょおドキドキしながらちゃんと部長さんを見て、ちゃんと部長さんに話しかけた。


「光は寝坊してもうておりません。」
「さ、さよか……あ、上履き…。」
「あー。」


なぁ、光。
部長さんめっちゃええ人やん。変態やけど。
やって光が居らんって分かったら慌てて靴箱いっぱいの手紙、自分で掻き出し始めたで。


「調子狂ってまうな…二人っきりって。」
「周りに他の生徒居りますから二人っきりやないと思います。」


返事、せぇへんけど普通に先輩後輩したらアカンかな?やっぱ怒ってまう?俺な、部長さんを部長さんって呼ぶの嫌やねん。俺が光に名前呼んでもらえると嬉しいみたいに、きっと部長さんは喜んでくれると思うんや。


「上履き、出て来たで。」
「おおきに、白石先輩。」
「………い、いま、」


嬉しそうな笑顔、俺めっちゃ好っきゃねん。


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喜びのあまり
エクスタシーと
叫びながら廊下疾走。


2014,09,29


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