柳生と三ヶ月目



傍にいると安心できる。だからもっと近くにいたいって思うのは当たり前の事だと俺は思っている。

慣れた柳生と俺の2人での晩御飯を食べ終えて。片付けも早々に終え珍しく2人でバラエティ番組を見る。あまりこういうのは一緒に見た事がない、というよりもテレビでは映画かニュースといったものにしかチャンネルを合わせなくなった。
三人は座れるソファの右端に俺、左端に柳生は座って食後のコーヒーを飲みながら芸人さんの話しに同じタイミングで笑う。

そのソファの真ん中に空いた空間をクッションで埋めながら。
CMに入って俺はクッションに顔を押し付けた。ふかふかの手触りが気にいって衝動買いしたのだが、これがなかなかいいのだ。枕にしてもいいしなんとなく撫でてもいい。


「コーヒー、おかわり要りますか?」
「んー?」


顔を少しだけ上げれば、俺の頭を撫でようと伸ばしかけの掌が見えて嬉しくてただ待つ。綺麗で細い指が俺の髪を一房掬いあげてはサラサラと落としていく。
そしてそのあとゆっくりと髪を撫でまわされる。優しい力加減に喜びながらちゃんと頷いておく。柳生が淹れるコーヒーはおいしいから。

顔をまたクッションに押し付ければ、柳生が立ち上がったのが音とソファの振動で分かる。耳をすませばまだ番組は始まっていない。クッションを抱きしめながら起き上りキッチンの方へ下がった柳生を見る。


「柳生、俺のコーヒー…」
「砂糖多くしますか?」
「…うん。」


言おうとしていた事を先回りされると、なんとも恥ずかしくなって俺はCM中のテレビを見ながら熱くなった頬をクッションで隠した。

そうか、もう三カ月柳生と2人で暮らしているんだ。そろそろバレていてもおかしくない。
俺はおかわりのコーヒーは少し甘くしたい、デザートの感覚で味わいたいから。いつもいつもそうだから柳生には丸わかりの様で。
柳生がコッチへ戻ってくる足音に慌ててソファの端へ座り直しながら、クッションを抱きしめ直す。


「はい。」
「ありがと。」


ことん、とローテーブルへ隣り合わせに置かれたマグカップは俺のが赤で柳生のが青で色違い。冗談半分で色違いにしようか?と提案したら「そうしましょうか。慎君は赤がとても似合いますよ」とさらりと言われ呆然としてしまった俺を置いて柳生がさっさと会計を済ませていた。
そんなこんなでこの家にいるマグカップが淵と淵が当たりそうな距離で置かれているのを見るたび、俺は思う事がある。


(なんか、お似合いだ。)


このマグカップ、並ぶととても綺麗だ。
お互いがお互いの色を引き立てている、赤の明るさ、青の静かさ。どっちもいい味が出ている。

俺と柳生も、隣に並ぶとこうなるのかな?

不意に思ってしまった。
このマグカップと同じで俺は馬鹿みたいに明るくてちょっと五月蠅いし、柳生は冷静で同い年とは思えないほど俺より落ちつきがある。もしもマグカップと同じなら、隣り合わせているとお互いの良さが際立つのだろうか。

そこまで思って、ひと1人が座れる真ん中の空白が邪魔なものなのでは?と思えた。
ぽっかり空いた空間。いつもはクッションが鎮座している空間は、今は誰も何もいない。

だから、CMが開けて賑やかになったテレビの音に負けないように柳生に聞いてみた。


「柳生…」
「どうかしましたか?」
「……この、ここ。真ん中を埋めたいって言ったら…どうする?」


ポンポンと控えめにそこを叩けば少しだけ首を傾げた後、柳生は良い事を思いついたと言いたげに眼鏡を押し上げた。


「それなら、私も慎君も真ん中によれば良いと思います。」


一緒に暮らして三ヶ月目。
今まで空いていた三人座れる大きめなソファの真ん中。

そこを初めて、俺達は俺達で埋めた。




三ヶ月目の密着




「柳生…お、落ちつかないです。」
「初めてですから。」
「…これからもっとくっついていい?」
「喜んで。」


next...謙也
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柳生が柳生になりきらない感
すいません、とにかく丁寧かつ大人な
柳生さんにしたかった。

2013,07,01

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