51.まともに気遣って



「ユウジもユウジやな、口で光に勝てるわけないやろ。」
「やかましい!ソレ以上言うたら死なすど!」


予想以上の混み具合に予定よりも早く商品は完売してもうて、俺達の出しもんはあっさり終わった。

「閉店しました」の札を扉に立てかけながら謙也は俺にアホを見る瞳で呆れたとデカイ溜め息。
財前は「ま、慎先輩が俺の事嫌えたらやめたりますよ」と言い捨て不敵な笑みで此処から去った。ソレがかれこれ10分前の事や、ココア一杯でどんだけ此処に居ったんやろうか…一時間じゃ収まらんほど居座りよったで。

散々良いようにからかわれた俺はやっと赤マスクを外して肩をグルグル回した、無駄に力んでもうたせいか体はばっきばきや。そうやなくても慣れない接客っちゅーもんで心もボロボロやで。


「ま、アレも光なりの気遣いとちゃう?」
「そら、とんだひねくれた気遣いやな。」
「はは、せやな。」


遠目から眺めるばかりやった謙也をじろっと睨んでみれば「まぁええやん、うけとったし」と客が笑っとった事を思い出しやと促される…せやけど俺はそれでは許せんほど疲れたんやぞ。
だいたい気遣われるやなんて、俺は光に何もしてへんしされてへんで。白石に気遣われるんやったら心苦しいんやけど分からなくはない。せめて幸せにと願ってくれとるんやと。
なんでやねん、見つからない答えに謙也は頬を掻いて間を空けてからエプロンの紐を解きつつ俺に背を向けた。


「お前、部室で会うた時とか元気なかったやん?」
「…は?」
「心配、しとったんやって。」


話しあいと言われ集められ部室に集まったあの日、上の空でぼんやりしとった俺は話しが終わる前に勝手に出ていった。その前の日も機嫌が良かったとはお世辞にも言えんかった。
小春が傍に居れば俺の機嫌はだいたい良かった、せやのにあの時は小春が居っても不機嫌やったりぼんやりしとったり…それまで財前達の前で見せとったいつもの俺やなかった、まぎれもなく素に近い俺の顔。
そんな変化に、少なからず財前は心配してくれとったというんか?あの生意気で毒舌の後輩が?

「あれでも次期部長やし」そう付け足して謙也は荷物を置いて来た教室の方向へ歩きだした。まだ賑わいが冷めない人混みをかきわけ進むその背は、どこか頼もしさに溢れとった。


「……分かるかいな、そんなん。」


「閉店しました」の文字が書かれただけの看板を横目に俺も歩きだす。
ほんまに可愛ない後輩をもつと苦労してまう、せやったとしても今日のは相当酷かったんやけど…また後で会うた時は聞いてみたろうかな。

なぁ財前、今の俺も情けなく見えるん?
思わず気遣ってしまうほど情けなかったやろうあの時の俺と比べて、今の俺はどんだけ胸を張って前を向けとる?

完売による早期閉店によって持て余してしもうたちょっとの時間、先に引き上げた慎の元へ向かって歩く。その一歩ごとに期待で体が熱くなっていく。




まともに気遣って




「ちゅーわけで、慎先輩のメアドと番号教えたってください。」
「良いけど…そう言えば財前くん出し物は?」
「別にええんです、あんな拷問なんか。」


荷物を置いとる教室には、見慣れたクラスの面々が居る…居るんやけど!
小春と白石に挟まれて慎のスマホに己のスマホを合わせるソイツは違和感なく三年に混じって苦々しく自分所の出し物を馬鹿にして…って!!


「ざいぜぇぇぇん!!なんでお前がおんねん!!」
「あ、ユウジおかえり。」
「チッ…おかえんなさい。」


おい謙也、アレがほんまに気遣っとる奴の態度か?横に居った謙也を睨み上げれば「……いや、その」とモゴモゴと言葉を詰まらせるばかり。明らかにサボりに来とるだけやないかい!ちゅーか白石も小春も止めたってや!
第二次戦争が開幕したのは言うまでもないやろ!!


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2014,06,13

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