50,まともに答えないで



混んだ、って昨日も思っとった。けどソレは比べ物にならん位、混んだ。


「お前のせいや妖怪無駄探し!!」
「なんやユウジこの忙しい時に俺に文句を言う…それ自体が無駄な行為やで!!あとその頭のリボンも無駄やで!」
「うっざ!自分いまめっちゃうざいで!!リボンの事は触れんとけや死なすど!!」


人が並んどる。何人並んどるのかは分からんけれど、とにかく並んどる。開店して間もなく席は全て埋まってしもうて、その状態から数時間経過しとる。そして一向に席が空かん。
やっと一つ空いたかと思うたら待っとった客が入ってくる、ソレの繰り返しで終わりが一向に見えん。まぁこの忙しさの原因は勿論白石やねんけど…!


「分かっとる…全て俺のせいやねん。この俺の格好よさのせいや!」
「死なすど…!」
「白石ドヤ顔やめーや…ユウジもごちゃごちゃ言うても意味ないんやから。」


結構本気で言うた口癖にも笑顔で答えて来よる白石にさらに苛立ちが募る、せやけど今は何を言うても無駄やろうと謙也が俺の背中を軽く叩いた。
客を前にしながらこないな事を言うても此処は四天宝寺、全てが笑いに変わってまう。その辺はありがたいっこっちゃ。こうして大っぴらに何でも言えてまうんやから。いや寧ろ客の前やなかったら口だけやなく殴る蹴るの喧嘩になっとるわ。
次々入る注文、応える裏方、そんで運ぶ俺たち。もう嫌になってまう。だいたい、俺がイライラしとるのは白石のせいだけやない。いや小春が客引きに行ってもうたってのもあるんやけど…!


「へー、慎先輩は緑茶派っすか。」
「おばあちゃんが好きなんだ。」
「意外っすわ。」


さらっと入店してきよったかと思えば慎を席に座らせて、延々とくだらん質問繰り返しとる財前…!なに隣確保してあれやこれやと聞きだしとるんやあいつは…!
昨日からなんや馴れ馴れしいとは思っとったけど、まさかこないな事をするとは…お前には絶対慎をやらんからな…いやお前だけやなく白石にも誰にもやらんけどな!
せやけど今はあいつが客や、しかもくそ忙しいっちゅー事もあって引き離しにもいけん。何度か目が合うんやけどその度にフッて鼻で笑いよる、なんやあの後輩ほんまに可愛げない!

確かに今は午後に入って、午前担当の俺と慎は自由時間やねんけど。それで今日の忙しさから見て回れへんやろうなーって覚悟しとったちゅーのに。やのにあいつは…!


「じゃ、きのこの森とたけのこの里、どっちが好きっすか?」
「たけのこの里かな…てか財前くん、俺そろそろ働かないと…。」
「ポッキーとトッポなら?」
「……ポッキー。」


席から立とうとする慎の腕を掴んで戻し、またどうでもええような質問をする…そんなやり取りをさっきから10回は繰り返しとるんやけど。どんだけ俺を精神的に追い詰めて遊んどるんや、あの後輩怖すぎやろ!
あぁもうほんまに限界や、イライラしてしゃーない。やっぱアイツにだけは知られたくなかった、こうなる事は目に見えとったんや…誰なんや財前に話した奴。
それに今はくそ忙しいねんで、猫の手も借りたいっちゅーのはまさにこの事や!財前は空気読めん奴とちゃう、つまり全てわざとや。
とんでもない営業妨害をしてくれよる後輩に我慢しとったけど、もう堪忍袋の緒がブチリとキレる音がした。私情7割、仕事のため3割で、俺はとうとう財前の席めがけて歩き出した、かなりの早歩きで。




まともに答えないで




「じゃー次は…」
「財前…その質問はなんの意味があるんや?」


銀のトレーを小脇に抱えつつ大声出したい気持ちを我慢して静かに問いかける。正面に立った俺に財前は「あ。」と声を漏らすもすぐににやりと笑いよる、そらもう愉快そうにな。ほんまに性格の悪いやっちゃ。
ひくつく頬と眉間を隠すことなく(眉間は赤マスクで隠れとるけど)、財前を睨みつければフッと小さく笑みが返される。そんで余裕ない俺とは正反対にゆっくりと机に頬杖をついて結構前に頼んどったココアを一口飲み慎を見て、わざとらしく小首を傾げる。


「俺と慎先輩の友好を深めるためっすわ。」


ね、と同意を求める後輩に慎は誘われるままに頷き、かけたのを俺が止めたる。慎の頭の上に手をおいて財前を一層睨めば、昨日も見た可愛げの欠片もない嫌な笑顔へ変わる。
あからさまな変貌に慎も流石に遊ばれていたのだと察してか俺を見上げて「ごめん」と謝る。いや慎は何も悪ないやんけ…悪いのは財前だけや。
慎に謝られると沸騰しとった脳内の温度が下がってまいそうやけど…でももうそんなん関係ない!こういうことする財前は俺の敵や!それを再認識して財前に向かってシッシッと野良猫で追い払うみたいに手を払う。


「お前は慎と仲良うせんでええわ!」
「うわ酷いこと言いはりますね。」


財前を交えたちょっとしたコントのような会話を始めた俺たちを、白石が面白そうに、謙也が面倒くさそうに見守った。財前の毒舌に俺が押され負けそうになるまで。


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2014,05,30

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