縛って繋いで、求めあう





「そんな甘いもんばっか食ってると病気になるぞ」



いつの間にか甲板に出てきていたペンギンが、街で調達してきた品が入ってるであろう紙袋を受け取りつつ、ベポへお決まりの小言を言っている。

甘いお菓子が大好きな白熊からすれば耳にタコのお節介なソレは、周りにいる私たちでさえもうすっかり聞き慣れたセリフだ。



「ならないよ、だっておれ熊だもん」

「熊だから言ってるんだ」

「もーペンギンはうるさいなー」



鬱陶しそうに口を尖らせるベポとそれを窘める母親のようなペンギンのやりとりが可笑しくて、思わず吹き出しそうになる。こうなることは分かっていたはずなのに、あんな生クリームたっぷりのワッフルを買い与えるローさんはつくづくベポには甘いらしい。



「ローさんが買い出しに行くの珍しいね?」

「あァ、ちょっと足りねェ薬をな」



船縁に寄りかかったまま私の肩に腕を回していたローさんを見上げ、問いかければ。正面へと回り込んだローさんが、下ろしたままの私の髪の毛を弄りながら何故だかニヤリと笑った。



「ふーん…?」

「ってのは、ついでだ。大事な買い物があってな」

「え?なに、そ…れ、っ!」



少しかさつく骨張った指が、隠れていたうなじを晒すように髪の毛を掻き分ける。うなじから首筋、首筋から鎖骨へと滑るように撫でていく指先が、ひんやりとした感触を肌の表面に残していった。



「…あ、こ…れ…」

「迷子になんねェように、首輪代わりだ」



着ていたつなぎの胸元から覗くのは、肌に馴染むピンクゴールドのネックレス。細いチェーンにぶら下がる小さな石が、光を集めてきらきらと反射している。いつの間に?とか、私にくれるの?とか、聞きたいことはたくさんあるのに。



「……い、犬じゃないんだから」



ぽろりと唇から零れ落ちたのは、そんな可愛げのない言葉で。こんなこと言うつもりじゃなかったと内心焦り出す私をよそに、胸元で輝くネックレスをなぞりながらローさんは愉しげに喉を鳴らした。



「たしかにお前は犬っつーより、猫か?勝手にフラフラ居なくなる」

「なっ、そんな人を夢遊病者みたいに言わなくても…」

「うるせェ。黙って繋がれてろ」



強引で強気な言葉とともに、指に引っかけたチェーンを少し強い力で引っ張られ、思わずよろけそうになる。千切れたらどうするんだと文句を言おうと意気込んだ身体は、勢いのまますっぽりと逞しい両腕の中へ閉じ込められてしまった。



「……ユースタス屋は昨日出航したらしい」

「え…あ、そうなの?」

「ああ、街で聞いた」

「そうなんだ…」



私を抱きすくめる腕にぎゅっと力がこもったせいで、少しだけ息苦しい。わずかな隙間を求めるようにもぞもぞと身を捩る私の頭の上で、ローさんの整った顎鬚がざりっと音を立てる。…というか、尖った顎でつむじをグリグリするのは止めてほしい。



「次会った時は、返り討ちにしてやる」



もしかして、キッドさんが別れ際に言ったことをまだ気にしているんだろうか。多分あの人は本気で私を船に乗せようなんて、考えてもいないと思うんだけど。もちろん私もローさんのそばを離れるつもりは毛頭ない。



「……うん…」



それなのにこうして言葉で、力で、その行動のすべてで、繋ぎ止めようとするローさんが愛おしい。どんどん強くなる腕の拘束に戸惑いながらも、その力強くて温かな束縛をどこか心地よく感じている自分に気付いていた。





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