君だから感じる、君だけに感じる




ここがお前の居場所だと、力強くそう言ってくれたローさんの言葉が目の奥を熱くさせる。たったそれだけのことで私の狭い視界はいとも簡単に奪われ、たった一人で埋め尽くされる。



「ローさん…」



滲んだ視界に広がるのは――思いを寄せる相手も同じように自分を想ってくれる、そんな奇跡としか言えない素敵すぎる贈り物。トンネルを抜けて海へ落っこちそうになったあの日、本当の私は事故にでも遭って長い夢を見てるんじゃないかってそう思う。


でも触れた唇から伝わる熱はたしかな感触を伴って、私が今こうして此処に居ることを実感させてくれた。ううん、それだけじゃない。流れ込む温もりと吐息が、私へと注がれるローさんからの愛情をしっかりと伝えてくれた。


繋がっていた指をそっと解いて、持ち上げた両腕を目の前にある褐色の首へと回す。与えられる熱をもっと近くで感じられるように、貪欲に求めるように。そしてそんな私に応えるかのように、贈られる口づけは深度を増した。



「ナマエ」

「ん、ローさ…っ」



何もかもを奪い尽くすような深い口づけなのに、私の欲しかったものがそこにはある。いや、もしかすると奪い尽くした先に残るたった一つが、ローさんの隣という「私の居場所」なのかもしれない。

ああ、だとしたらそれはなんて素敵なことなんだろう。いちばん欲しかったものが、無条件に与えられる。しあわせすぎて、こわい。



「…あり、が…とう…」



腕を回した首や肩、背中にかけて薄っすらついた筋肉は引き締まっていて、無駄がなかった。自分にはない筋張った逞しい感触を手のひらに感じながら、何度も何度も往復させる。

ふいに顔を上げたローさんが、目を細めて笑った気がした。はっきりと断言出来ないのは、にわかに濃藍色の頭が首筋を通ってさらにその下へと向かっていったから。



「…っん…」



肌蹴た胸元から覗く白い肌を赤で染めるように、落とされた熱が甘い痺れを生んでいく。身に着けていた衣服はどんどん剥ぎ取られていって、露わになった身体のラインを這う、骨張った大きな手。



「柔らけェ…」



ぐにゃりと形を変える様を楽しむように、強弱をつけた指先が膨らんだ白に埋もれていく。時折掠めるように赤く色づいた胸の飾りに触れられて、そのもどかしさに眉根を寄せた。



「…あっ、…や…」



次第に浅く速くなっていく呼吸。追い詰められるように、でもどこか導かれるように、やり場のない熱が身体の中心へと集まっていく。ゾクゾクと這い上がってくる何かに、びくりと腰が揺れた瞬間。


熱を孕むそこへ吐息がかかった。太い指と熱い舌先がぬかるんだ場所に触れるたび、背中を反らして小さく声を漏らす私。

まるで食べられているみたい――顔を埋めたまま小刻みに揺れるローさんのつむじを見ながら、滲む視界の中でそんな風に思った。私のすべてを余すことなくローさんに差し出したい。全部味わって欲しい。



「…はっ、ナマエ…」

「あっ、あ…ン、ローさ…っん」

「フフ…何てツラしてんだ」

「…っふ、ぇ…だ、って…」

「何だ、気持ち良すぎたか?」

「ち、が…っ、ろぉ…さ…すき、好きなの…いっぱい」



言葉で、与えてくれる行為で、私に温もりを与えてくれるローさんが好き。膨れ上がった感情は、堪えきれずにぽろぽろ零れ落ちて頬を濡らした。「好き」だなんて幼稚で拙い言葉でしか、まだこの気持ちを伝えられない私だけど。でも生まれたこの感情だけは、本物だって自信を持って言えるんだよ。



「…知ってる」



普段は帽子の影に隠れている鋭い瞳が、柔らかな色を灯しながらじっとこちらを見つめてくる。緩やかな弧を描く唇がゆっくりと近付いてきて、目尻に溜まった涙を掬っていった。

それでも追い付かずにどんどん涙は溢れてくるけれど、こんなにあったかくて幸せな気持ち、ローさんに出会うまで知らなかった。





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