笑いの絶えない、この場所が好き




ローさんに貰った護身用のナイフ。肌身離さず持ち歩くようにしていたそれと、街の広場で見かけた道化師の曲芸――この二つにヒントを得て、閃いた試み。それは体力も腕力もない弱い私が、これから先もずっとローさんのそばに居るための挑戦だった。



「ほら、もっと背筋伸ばして顎を引くんだ」

「うっ……こ、こう?」

「うん!ナマエ、イイ感じだよー」

「姿勢は合格だな!」



そんなわけでこうして手始めにベポやペンギン、シャチに手伝ってもらいながら、まずは得物としてのナイフを構えるところから特訓してもらっている。もちろんみんなのように特別運動神経がいいわけでもないから、最初はナイフを持っても、今から料理でもするんですか?って感じだったけど。



「よし、次は的を用意してそこに当てる練習でもするか」

「じゃあ俺が、倉庫から使えそうなモン適当に持って来てやるよ!」

「アイアイ!シャチもたまには役に立つね!」

「うるっせェよ!熊!」

「あははっ、ありがとーシャチ!」



ローさんの隣で並ぶのに相応しい自分でいられるように、頑張らなくちゃ。そんな風に知らず知らずのうちに力んでいた肩の力が、みんなと居るだけでふわっと緩んで、いつの間にか気負いのない自然体で笑っていた。


今の私に出来ること・出来ないこと、その境をしっかり見極めることが、まずは一番だろう。よくも悪くも自分の力量を見誤った人間に、それ以上の成長は望めないから。今は焦っちゃダメだ。



「よーっし、じゃあ行くよ!?」

「おう、へっぴり腰になんなよー」

「ならないよっ」

「ナマエ、がんばって!」



倉庫から運ばれてきた使わない酒樽を重ねた上に置かれた、空のワインボトル。キュッと括れた瓶首から少し下の位置に狙いを定め、えいやっと放ったナイフは……コツンと情けない音を立てて、樽から数十センチほど手前に転がった。



「………あれ?」

「ナマエ…」

「掠りもしてねェ…」



シャチの容赦ないツッコミがグサグサと胸に突き刺さる。気合入れて腕捲りなんかもしちゃって、ポーズもそれなりに決まってたはずなのに……標的に掠りもしなかったなんて。そりゃ私だって、自分で自分が情けないけども!



「まぁ最初から的に当てようとするな、まずは真っ直ぐナイフを投げるところからだ」

「うー…でもそれが難しいんだってば、ペンギーン!」

「ナマエさー、もうちょい腕に筋力つけたほうがいいんじゃない?」

「な、なるほど!さすがベポ!!」

「えへへー」



ナイフ投げ云々よりもお前はまず、筋トレから始めろ。俺がトレーニングメニューを組んでやる――そう言い放ったペンギンの表情は、何故か輝いて見えた。例えるなら、出来の悪い生徒を前に指導に燃える熱血教師。純粋な善意の塊だからこそ、きっと手加減なしだろうことが容易に想像出来る…。





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