君の想い、僕の決意




守られているだけでは嫌だ――そうはっきりと告げるナマエの言葉に、迷いや揺らぎといったものは一切見当らなかった。

俺が尤もらしい正論で説き伏せようとしても、きっとコイツを止めることは出来ないのだろう。じっと見据えてくる黒目がちな瞳を見ていると、自然とそんな風に感じた。一体いつからコイツは、こんなにも力強く意志の宿った目をするようになった?


自転車に乗ったままいきなり空から降ってきたナマエ。俺の能力で生首にされて気絶したナマエ。突然の敵襲にパニックになってるかと思いきや、敵に狙われていたベポのピンチを救ったナマエ。すぐにセクハラだ何だと文句を言うくせに、肝心なところで隙だらけの無防備なナマエ。その上ちょっとそばを離れりゃ、勝手にユースタス屋に目ェ付けられてるし。
 

度胸があるのかないのか、馬鹿なのか利口なのか…「こんなもんだろう」とこちらが想定していた範囲を軽々飛び越え、突飛な行動を見せるたった一人の女に、いつの間にか調子を狂わされている俺がいた。


――結局、最初からナマエはナマエだったんだろう。ビビりな癖に妙なところで度胸を見せるコイツは、やると決めたら自分の想いのままに突き進む奴だった。でなけりゃ、こっちの世界に残ることはしなかっただろう。

そんな無鉄砲な選択肢に賭けられるナマエに、俺は一分一秒刻々と積み重ねるように、今この瞬間も惹かれていくんだろう。



「ちょ!ナマエ、おま…下手すぎだろぉお!」

「ち、違うし!シャチが横でごちゃごちゃうるさいから集中出来なかっただけだもん!」

「うぉおおい!俺のせいかよ!!」



街にいた時はまだ頭上高くにあった太陽も、真上を過ぎてすっかり傾いている現在。広場を離れてからすぐ船に戻ったナマエは、ベポたちを相手にさっそくナイフ投げの練習を甲板で始めた。

その様子を少し離れた場所で、船縁に背を預けたまま眺める俺の表情は、他人が見たらきっと複雑なものに見えると思う。


自分のそばに居るために、強くなりたいと願う女。その女を自分の手で守ってやりたい俺。ナマエの行動の理由が俺自身だということを嬉しく感じると同時に、何とも言えない気持ちも湧きあがるのは仕方がないというもの。



「まぁ最初から的に当てようとするな、まずは真っ直ぐナイフを投げるところからだ」

「うー…でもそれが難しいんだってば、ペンギーン!」

「ナマエさー、もうちょい腕に筋力つけたほうがいいんじゃない?」

「な、なるほど!さすがベポ!!」

「えへへー」



無邪気に笑いながら手本を見せるベポに、疲れも吹き飛ばすくらい賑やかなムードメーカーのシャチと、ナイフを構えるフォームを指導するペンギン。その中心にいるナマエはとても楽しげだった。その笑顔を見ているだけで、自然と頬が緩むのを感じる。


ナマエが俺のそばにいるための努力を惜しまぬと言うのなら、俺もそんなコイツの笑顔を失うことがないよう全力で守るだけ。

ただ腕の中で守られるだけじゃ嫌だと言うナマエの想いも全部ひっくるめて、強さも弱さも不安もすべて俺が受け止めてやるだけだ。


そんな新たな決意を胸に灯した俺の頬を、慣れ親しんだ潮風が撫でていった。オレンジ色の夕日が水平線の彼方へ沈むまで、あともう少し。





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