ただ守られるだけじゃ嫌なんです




広場の中心でパフォーマンスを続ける道化師と、それを囲む人の輪。一際高く上がった歓声に引き寄せられるように、私とローさんも輪の端っこへと加わった。もちろん繋いだ手は離すことなくそのままだ。


よく見れば、ナイフを使ったパフォーマンスを披露しているところで。ニコニコと笑う道化師の手のひらから、いくつものナイフがお手玉の要領で高く投げられる。放物線を描いてくるくる回るそれは、陽の光を受けながらキラキラと反射した。



「わっ、すごい…!」



心からの感嘆が素直に言葉となって飛び出したのは、広場に立つ道化師が投げたナイフが、的となった真っ赤なリンゴに突き刺さっていたから。しかもその的はただのリンゴではない。もう一人いる道化師の両の手のひらと頭の上に乗せたリンゴの、ど真ん中を見事貫いている。



「…へェ、子供騙しのわりにやるな」



リンゴが砕けない程度の絶妙な力加減と、素晴らしいコントロールには目を見張った。それはもう、隣に立つローさんでさえ思わず声を上げるくらいのレベルだ。



「……あ」

「あ?」

「そうだ…!」

「何だ、急に」

「閃いちゃったよ!私、天才かも…」

「…は?」



そう、このナイフ投げのパフォーマンスを見て閃いてしまったのだ。思わぬヒントを得られて興奮気味の私の様子に、ローさんは怪訝そうな表情を隠そうともしないけれど。



「私、ナイフ投げの練習する!」

「……大道芸人にでもなるつもりか」

「いやいや、何言ってんのローさん」

「お前が何言ってんだ」

「違うよ、ほら!ローさんがくれたこのナイフ!」

「あ?…それがどうした」



今日もちゃんと腰のホルダーに仕舞ってあるナイフを指差すが、訝しげにこちらを見下ろすローさんの表情は色濃くなるばかり。あーもう、何で分かんないかなー。せっかく贈られたナイフ、ただの飾りにしてしまうのは勿体ない。



「これ、私の武器にするの!」

「…あァ?」

「だって、ローさんのそばにずっと居るんなら、少しは強くならないと!」

「お前には無理だ。その必要もねェ」

「何で!」

「前に言っただろーが。俺の傍を離れねェって誓うなら、どんな事があってもお前を守ってやるって」



確かに私はその言葉をローさんから貰った。こちらの世界へ残ることを決めて、荷物を処分しようとした時だ。本当に嬉しかったのを覚えてる。自分の居場所は此処なんだって…そう思えた、思わせてくれた一言だったから。



「…それは、聞いたけど…」



ローさんの腕の中は好きだ。安心できて居心地がいい。何があってもきっと私のことを守ってくれる、頼もしい腕だって分かってる。でも、だからこそ…その中でじっとしてるだけの足手まといな自分なんてゴメンだ。



「守られてるだけじゃ…嫌…」



心地いい居場所だからこそ、失くしたくない。その温かい場所を私が守る、なんて大それたことは言えないけど……でも、ちゃんと自分のこの二本の足で踏ん張って、ローさんの隣に立って居たいと思う。


そう言って自らの胸の内を曝け出した私と、驚いたように目を見張るローさんの視線が、真っ直ぐにぶつかる。反対されてもこの気持ちだけは譲れない。そんな意思を込め、無言で見つめ合う瞳を逸らすことはしなかった。





- 31 -
目次 | *前 | 次#

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -