くるくる変わる君の表情に、釘付け




本当の意味でナマエを自分のものにしてから、一夜明けた今日。昨日はゆっくり街を見て回れなかったからと強請るナマエに腕を引かれ、やって来たのは見覚えのあるジェラートの屋台だった。



「いらっしゃいませー。ただいまキャンペーン中につき、ダブルのお値段でトリプルが選べますがどうされますかぁー」

「わ、すごいお得っ!」

「500ベリーで3つの味が楽しめる期間限定キャンペーンでーす」



相変わらずやる気があるのか無いのかよく分からない店員が、聞き覚えがありすぎて嫌になる台詞でやはりトリプルキャンペーンを勧めてくる。



「ローさん、私トリプルがいい!」

「…あァ、好きなの選べ。ちなみに人気の味はアレとソレとコレだと思うぞ」

「すごい詳しいんだね!?」

「……まあな」



種類豊富なジェラートを食い入るように見つめていたナマエが、感心したようにキラキラとした瞳を向けてくるが。二日連続だ、さすがに俺でも覚えている。いや、忘れようにも忘れられない。



「ほら、しっかり持ってねェと落っことすぞ」

「そんなマヌケじゃありませんー!」

「ハッ…どうだかな」



頬を膨らませながらも、受け取ったジェラートを嬉しそうに両手で持つナマエを木陰のベンチへ導く。並んで腰かけたまま、こんもり盛られたジェラートの山をぱくぱく美味そうに頬張る姿を見つめていれば。視線に気付いたナマエが手を止め、じっと見上げてきた。



「ローさんも食べる?」

「んな甘ったるいの、いらねェよ」

「えー美味しいのにー」

「おい…付いてんぞ、横んとこ」

「えっやだ、うそ!」



両手に持ったジェラートのカップをわたわたと持ち変えながら慌てだすナマエの腕を掴んで、ぐっと力を込め引き寄せる。バランスの崩れた背中を支えながら、艶々と赤く色づく唇の端っこを舐め取ってやった。



「……こんだけじゃ味は分かんねェな」

「ばっ!な、バカじゃないのッ!ここ野外だよ!?」

「おかわりはないのか?クク…」

「ないよ、変態っ」

「フフ、手厳しいな」



頬を赤らめたり膨らませたり、拗ねたように唇を尖らせてみたり。忙しなく変わっていく表情を眺めるだけで、本当にコイツと過ごす時間は飽きない。

ひとしきりナマエをからかったところで満足した俺と、冷たくて甘いジェラートを堪能したナマエ。特にあてはないが二人ぶらぶらと街を歩く。



「……あれ?あそこにいるのってベポじゃない?」

「あ?…本当だな、何やってんだアイツ」



ふいに声を上げたナマエの視線の先にいたのは、オレンジ色のつなぎを着た白熊。大きな身体を窮屈そうに折り曲げ、道端にしゃがみ込んでいる。



「おーい、ベポー!」

「?……あっ!ナマエとキャプテンだ!」



自分を呼ぶ声の主を探そうと立ち上がり、きょろきょろ辺りを見渡していたベポが、俺たちの姿を見つけると嬉しそうに手を振ってきた。

そうしてからやっと気付く。ベポがしゃがみ込んでいたのは、昨日ナマエのベッドを注文した家具工房の店先だった。



「…そう言えばローさん、」

「あ?」

「私、その…抱き枕係は…えと、続行ってことでいいん…だよ、ね?」



不安気に瞳を揺らせながら、恐る恐るといった様子で伺ってくるナマエの可愛さと言ったら。ここが船内なら即、押し倒していたところだ。普段はどちらかというと強気なくせに、時折見せる儚げな表情は反則だと思う。


いや、今はそれよりも。注文したベッドをどうするかが、問題だ。
まさかこんなにも早く、不要になる時が来ようとは。





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