おかげさまで私たち、結ばれました




未だかつて、スタンディングオベーションで食堂へ迎え入れられたことがあっただろうか。否、ない。

それどころか高らかに拍手を打ち鳴らすクルーたちの中には、驚いたことに目に涙を浮かべている者さえいた。…おい何があった、シャチ。



「…え、ちょ、みんな一体どうしたの?」



何が何だかさっぱり分からない状況にクエスチョンマークを浮かべながら、問い質せば。キッチンから、ちょうど山盛りのサラダを乗せた大皿を運んできたコックさんが、にっこり笑って答えてくれた。



「おめでとうナマエ!やったな、とうとう船長と…」

「はぁ!?ちょ、待っ!コックさんッ!!?」



何を言い出すのかと思えば、グッと親指を立ててウインクしてみせるお茶目なコックさんは、明らかにさっきまで私たちがしていた行為を分かっているような口振りで。

何で知ってるの!?この潜水艦、壁薄くなんかないよね!?まさかの筒抜け!!?と、軽くパニック状態に陥った私へ追い討ちをかけたのは、更なるベポの言葉だった。



「キャプテン達も街から戻ってたみたいだし、おれもうすぐご飯だよって呼びに行ったんだけど、なんか交尾してたからさーごめんね?先に夕飯食べちゃった!」

「こっ、な…!」



テヘヘッと頭を掻きながら無邪気に笑ってとんでもない爆弾を落としてくれたベポに、驚きのあまり言葉を失ってしまう。

なにこの白熊、いま交尾って言ったよ、有り得ない!そこは声とか聞こえちゃっても、知らないフリするのが人としての…あ、違う、白熊だよベポは…え、なにコレ…新手の羞恥プレイ?

声を大にして言いたいことは言葉にならずに、頭の中をぐるぐると駆けまわるだけ。



「あ、謝るの…そこじゃないって、ベポ…」

「え?」



やっとの思いで絞り出した非難の声に、なんで?とでも言いたげなつぶらな瞳を向けてくるベポ。その姿にそれ以上もう何も言えなくて、へなへなと脱力してしまった。居た堪れない気持ちで、さっきから無言で隣に立つローさんを見上げれば。



「……フフ」



ものすっごい、ニ ヤ ニ ヤ し て る …!
それはもうこのニヤついた顔のまま外を歩いてたら、職務質問を受けるんじゃないか…と不安になる勢いで、不審者そのものだった。



「ろ、ロー…さん?」

「ベポの判断は賢明だな。もしイイとこで邪魔しやがったら、お前らバラすから覚悟しとけよ…フフ」

「「「はいっ!船長〜〜!!!」」」



私たちをぐるりと取り囲むクルーへ睨みをきかせながら釘を刺すローさんは、どこか愉しげに口端を持ち上げニヤリと笑っている。

ていうか笑いごとじゃないと思うんですけど!デリカシーなさすぎじゃない?私なんて穴があったら入りたいくらい恥ずかしいっていうのに…!



「信じらんない…」



ぶつくさと文句を連ねる私を置いて、ローさんは定位置である食堂奥のテーブルへさっさと向かう。コーヒーを運んできたコックさんと二言三言、言葉を交わしながら新聞を広げ始めた姿を恨めしい気持ちで見つめていると。



「いや〜これで船長の機嫌もしばらくは安泰だな!」

「ナマエと船長が無事結ばれて一番喜んでるのはお前じゃないか?シャチ」

「当たり前だろうがペンギン!俺がどんだけ機嫌の悪ィ船長にバラされたと思ってんだ!」



理不尽な仕打ちからやっと解放されると、晴れ晴れとした表情で喜びを分かち合っている"被害者の会"の声が耳に届いて、さっきまでとは違う意味で居た堪れない気持ちになってしまった。


とりわけバラされ回数の多そうなシャチには、心の中でこっそりゴメンと謝っておくことにする。





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