じゃあ君には、未来を全部あげよう




触れる指先、唇、絡む視線すべてに恥じらいながらも、持て余しそうなほどの大きな快感を受け止め、意識を飛ばしたナマエ。

スースーと寝息を立てるあどけない表情に、知らず頬が緩んだ。瞬きさえも惜しむほど、たった一人の女に夢中になっている自身に気がついて、自嘲めいた笑みを零せば。



「…ん…っ、う…?」

「起きたか」

「…ろぉ、さん?」



夢と現の境目でぼんやり微睡みながら、ぱちりぱちりと瞬きを繰り返すナマエ。初めてだというのも忘れ、散々鳴かせてしまったせいで掠れた声が俺の名を呼んだ。



「腰、痛むか?」



ドクンと一際強く響いた鼓動を誤魔化すように、うつ伏せのまま横たわるナマエの腰をゆっくりと撫でさすっていく。

男を受け入れることを初めて知った身体は、本人が思う以上に負担を感じているわけで。無理やり身体を起こそうとしたナマエの顔が痛みに歪んだ。



「バカ、まだ横になってろ」

「…こ、こんなに痛いなんて、聞いてない…」

「まァ、個人差はあるだろうけどな」



だが苦痛の色を浮かべるその表情さえも、俺にとってはただ愛おしいだけ。快楽も痛みも、ナマエにとって感じるすべての喜怒哀楽は、俺に起因するものであればいい。俺だけを感じて、俺だけにそのすべてを見せろ。

そんな身勝手な独占欲に駆られる俺を、どこか拗ねたような表情を浮かべたナマエが見上げてくる。



「……個人差…」

「何だ」

「……他の人も、痛がってた?」



どうしたんだと問いかけ、ぽつりと返ってきた言葉に一瞬言葉を失ってしまった。何でもない風に強がって見せるが…短い疑問形が伝えてきたのは、明らかに俺が今まで相手にしてきた女たちを気にしている、ナマエの想い。



「あ?…さあな」

「……ふーん、」



本人にその気はないだろうが、唇を尖らせて小さく唸るナマエの姿はもう一回戦始めたいくらいに可愛いモンで。ムクムクと刺激された悪戯心のまま、柔らかな髪の毛を指へ絡めて遊ばせた。



「何拗ねてんだ」

「拗ねてない。そういうんじゃないよ」

「へェ?…そりゃ残念」



瞼、頬、唇、顎から耳のラインをなぞるように指を這わせれば、素直に反応するナマエからはくぐもった声が漏れる。他の女とお前を比べるまでもねェ。いや、そもそも同じ土俵の上にすら立っちゃいないというのに。



「…っ、ん…」

「生憎はじめてを貰ったのは、お前が最初で最後だ」

「…え……ぁ、んッ」



小さな嫉妬を宿らせるナマエへの愛おしさが、際限なくどんどんと膨れ上がっていく。追い求める夢があれば、仲間がいれば―…それ以上を欲したことなんてなかった。自分がたった一人の誰かをそばに置くなんて、想像もしていなかった。



「だからお前以外、他は知らねェ」



だが、知ってしまった今となってはもう後戻りなんて出来ない。いや、するつもりも更々ねェ。目を見開いたまま驚きで固まるナマエを跨いでそっと耳元へ唇を寄せる。

ぴくりと跳ねる小さな身体に口づけをまた落としながら、何があろうと二度と手放してやるもんかと、密やかな決意を固く結んだ俺の想いを知ったらお前はどう思うんだ?


囚われたのは俺とナマエ、一体どちらか。
――いや、そんなの考えるまでもねェ…どっちもだろう?





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