君の手のひらの上で転がってみたい




例えば夏休みに朝からプールではしゃぎまわって、日に焼けた身体ごとタオルケットに包まってお昼寝した時のような。

そんなどこか心地よい疲労感を感じながら、深く沈み込んだ先で手放していた意識が、わずかな身体の軋みとともにゆっくり目覚め始める。



「…ん…っ、う…?」

「起きたか」

「…ろぉ、さん?」



夢と現の境目でぼんやり微睡みながら、ぱちりぱちりと瞬きを繰り返して更なる覚醒を促せば。少し骨ばった温かな感触が、うつ伏せのまま横たわる私の腰をゆっくりと撫でさすっていく。



「腰、痛むか?」

「……んー…っ、…うッ!」



力の入らない腕で何とか踏ん張って、上半身を起こそうとした瞬間――身体を駆け抜けていった激痛に、思わず絶句してしまった。痛い、何コレ…ほんと痛いんだけど。



「バカ、まだ横になってろ」

「…こ、こんなに痛いなんて、聞いてない…」

「まァ、個人差はあるだろうけどな」

「……個人差…」

「何だ」



分かりきっていたこととはいえ、ごく自然に「個人差がある」と言ったローさんの言葉に、何だかモヤッと霞がかかったような気分になる。

当たり前だけど、私の"初めて"はローさんで。でもローさんの"初めて"の相手はもちろん私じゃない。というかそれ以前に、ローさんがこれまで関係を持った女の人を数えたら、きっと凄いことになるに違いない。



「……他の人も、痛がってた?」



顔も知らない誰かと比べられるなんて、まっぴらごめんだというのに。でもそんな私の口から出てきたのは、その"誰か"を気にしている言葉。平然を装ったつもりでいても、尋ねる私の口調は、きっと拗ねるような声色をしていたはずだ。



「あ?…さあな」

「……ふーん、」



シーツに包まったまま、隣に座るローさんをちらりと見上げると。「さあな」なんて口では素っ気なく言いながらも、刺青の入った骨張った指にくるくると私の髪の毛を巻き付け、ふわりと優しく笑う。



「何拗ねてんだ」

「拗ねてない。そういうんじゃないよ」

「へェ?…そりゃ残念」



クツクツと喉を低く震わせ笑うローさんに、恨みがましげな視線を送るけれど。てんで意に介さない様子で、するすると指先を肌に滑らせてきた。

瞼、頬、唇、顎から耳のラインを擽るように。先ほどまでの愛撫を思い起こさせるような絶妙な力加減で触れてくる指に、思いがけずくぐもった声が漏れる。



「…っ、ん…」

「生憎はじめてを貰ったのは、お前が最初で最後だ」

「…え……ぁ、んッ」



ニヤリといつもの意地悪な笑みを浮かべたローさんの聞き捨てならないセリフに、二重の意味で驚き固まる私。その上へ四つん這いになるように跨って、そっと耳元へ唇を寄せるローさん。



「だからお前以外、他は知らねェ」



鼓膜に捩じ込まれる熱い吐息に乗せたセリフは、甘い余韻に浸るこの身体をどうしようもなく痺れさせた。





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