大好きだから、不安なんです




「コックさーん!ここにある玉ねぎ、全部皮剥いちゃって大丈夫?」

「おう、頼めるかい?皮剥いたら、くし切りにしてくれ!」

「アイアーイ、任せて〜」



ローさんの腕の中から逃れ、向かった先は―…もちろん食堂奥のキッチン。船内の雑用を任されている私は、一日の三分の一はキッチンでコックさんの手伝いをしながら時間を過ごしている。



「〜♪フン、フフーン」

「…なァ、嬢ちゃん?」

「ん?なんですかー?」



鼻歌交じりに玉ねぎの皮を剥いていると、やけに真剣な声色でコックさんが私を呼んだ。一体何だろうかと、隣に立つコックさんに向き直れば。



「あー…船長とは、その…仲良くやってんのかい?」

「……へ?」



いつも豪快なコックさんらしからぬ、奥歯に物が挟まったような物言いで尋ねられたのは……予想もしていなかった思わぬ問いかけで。

ぽかーんと開いた口もそのままに、コックさんの顔をまじまじ見つめていると。困ったようにコック帽の上から頭を掻きながら、言った。



「いや、その…船の奴らがなぁ、よくバラされてるんだよ」

「バラ…って、え?ローさんにですか?」

「ああ。ここ最近の船長、どうもイラついてるみたいでなァ…」

「…ローさんが……」



コックさんの言葉に、自分が知っている限りの最近のローさんとのやり取りを頭に思い浮かべてみる。

……心当たりと言ったら、正直ローさんからの…その、夜のお誘い?を断ってることくらいしか…思い当たらないんだけど……まさか、ね…。



「参ったな〜俺も若い奴らから頼まれたもんで、聞いてみたんだが…嬢ちゃんにも理由は分かんねェか〜」

「…ぁー…いや、そのー…実は、ですね…」



心底弱ったという風に肩を竦めるコックさんの姿に居た堪れなくなって、恥を忍んで全てをぶちまけることにした。何より私自身、もうどうしていいのか分からなくなってきてたから。





*****





「…はぁああぁ!?ま、まだ…だったのかい…嬢ちゃんたち……そうか、それで船長も荒れてたワケだこりゃ…なるほど…」



けれども案の定――赤面必至の私の告白は、目玉が飛び出さんばかりのコックさんの驚きっぷりを招く結果となる。



「……やっぱり、何もないって…おかしい、ですかね?」

「あ、いや…おかしいってワケじゃねェよ?嬢ちゃんはまだ若いし、自分自身を大事にするってーのには、俺ァ賛成だ!ただ……」

「た、ただ…?」

「いや、あの船長がよく我慢してるな〜と思ったらよ……ちょっと俺ァ、泣けてきたぜ…?」

「え、そ…そんなに、ですか…」

「ああ。嬢ちゃん、後生だ…どうか船長の男の部分も汲んでやってくれ!俺から言えるのはコレだけだ…!」



ガシッと両肩を掴まれ、力強く告げられた言葉につい後退りながらも、コクンと頷いてしまった。……だってコックさん、ちょっと目が血走ってたんだもん。


それに…やっぱりいつかはローさんとの関係を一歩進めたいって気持ちも、ちゃんとあったから。うん、不安な気持ちも全部―…ローさんに打ち明けてみようかな…。





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