君と交わす口づけに、囚われる




押し当てられた唇は角度を変えながら、私の呼吸を奪っていく。食むように繰り返される口づけに次第に息が上がってきて、腰に回した両手でパーカーの布地を強く握りしめた。



「…っ、はぁ…ロー…さん、」

「ナマエ…」



名残惜しそうに離される唇。鼻先が触れ合う距離でじっと見つめられると、頬に集まった熱で頭の中から溶け出してしまいそうになる。それはまるで熱々のフォンダンショコラみたいに溢れ出す、胸やけを起こしそうな程の甘ったるい感情。


熱を帯びた灰色の瞳の中に見つけた、映りこむ自分の姿。気恥ずかしさから視線を逸らせば、咎めるように先ほどよりも一段と深まった口づけが贈られた。



「んっ…、ふ…!」



口内に差し込まれたローさんの舌が、見つけ出した私のソレを包み込むように優しく擦っていく。表通りの喧騒から取り残されたかのような暗く静かな路地裏に、粘膜同士が絡み合う水音が響いた。


その粘着質な音を立てているのが、自分自身なのだとあらためて認識した瞬間―…襲ってくる羞恥に、泣き出しそうになってしまう。



「…っふ…ぅ、ん…や、ぁ」

「っ…はぁ、ナマエ…」



思わず顔を背けるように身を捩った私と、ローさんとの間を銀糸が繋ぐ。ぷつりと途切れたそれを視界の隅っこで認めながら、乱れた呼吸を整えていると。

頬を撫でていたはずの大きな手のひら――節くれ立った指先が、くすぐったいようなもどかしいような絶妙な力加減で、耳の輪郭から首筋をなぞっていった。



「…あっ…ん、」



耳、首筋、胸と下降していく手のひらを追いかけるように、指先が触れた箇所を辿りながら、形の良い唇が熱を与えていく。その熱に浮かされて霞がかかった頭の中、確かに感じるのは目の前のローさんだけだというのに。


着ていたカットソーの裾から入り込んだ骨張った手が素肌に触れた時、首筋に顔を埋めていたローさんの肩を咄嗟に押し退けてしまった。



「…っ、ごめ…ん」

「ナマエ」

「……はい」

「俺はお前が欲しい…この意味、分かるか?」

「……ん、」

「気持ちも身体も全部、俺に委ねろ」



そう言って私を見つめるローさんの、真っ直ぐ射抜くような視線に搦め捕られ瞬きさえ出来なくなる。呼吸すら止められてしまったのではないかと思える沈黙の中で、私が導き出した答えは―…ううん、私の答えは最初から決まっていた。



「ローさん……船、戻り…たい、の…」



押し退けたはずの肩に縋るように指先をかけ、ぎゅっとパーカーを掴む。はじめてを捧げるのは、ローさんの匂いが染みついた慣れ親しんだあの部屋がいい――拙い言葉で懸命に告げた私の意思は、伝わっただろうか…。


不安気に瞳を揺らす私のこめかみへローさんが唇を落とした。くすぐったさに目を瞑った私の瞼に、また口づけが降ってくる。おでこや頬に鼻、顔中に散りばめられたキスは、最後に可愛らしい音を立てて唇から離れていった。





- 17 -
目次 | *前 | 次#

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -