加速する愛おしさに溺れましょう




これまでに明確な言葉で拒絶されたわけではない。ただ口づけが深まる瞬間だとか、それ以上を望むような意志を伴って身体に触れようとした瞬間――必ずと言っていいほどに強張り、身構えるナマエの身体。


そんなアイツの様子が分かりすぎる程に分かるからこそ、無理強いはしないと決めた。それなのに……そんなこちらの決意なんて知りもせずに、ナマエは引き剥がしたはずの身体を自ら俺に預ける。



「…うん…いいよ、ローさんなら」



挙句の果てに、この台詞だ。いいよじゃねェ、全然よくないだろ。現に押し付けられた柔らかな胸から伝わる鼓動はやけに早い。



「バカ言ってんな、帰るぞ」

「…っ、私…確かに怖いけど…っ!」



窘めるように頭を撫でてやりながら、もう一度抱きつく身体をそっと離そうとすれば。ぶんぶんと左右に頭を振りながら、腰に回した両腕に力を込めるナマエ。



「…おい、」

「ローさん、がいい…ローさんじゃなきゃ、やだ…!」

「な、にを……」

「こうやって触れられるのは、触れ…たいって、思うのは……ローさんだけだもん!」



見下ろしたナマエは顔を俺の胸に埋め、表情を窺うことは出来ない。だがはっきりと言い切った大胆な台詞とは裏腹に、髪の毛の間から覗き見える耳は真っ赤に染まっていた。途端にむくむくと大きく膨れあがったのは―…必死に抑えていたはずの感情。


――ナマエに触れたい。桃色に色付いているであろう頬を愛しむように撫で、顔中に口づけを降らせてやりたい。折れてしまいそうな華奢な身体を掻き抱いて、腕の中に閉じ込めてしまいたい。



「…ナマエ…」



欲情とも呼べぬことはないソレは、しかしただナマエを抱きたいとか自分のものにしたい、だとかいう単純なものでもない。だからこそナマエの背に回しかけた手のひらは、中途半端に宙に浮いた状態のまま思案する。



「…私を…ちゃんと、ローさんの…ローさんだけの、ものにして?」



そんな俺の躊躇いに揺れる最後のわずかな理性を打ち砕いたのは、どこか不安気な色を浮かべながらも…一言一言ゆっくりと確かめるように紡がれた言葉だった。


コップから溢れ返った水のように、許容できる量なんてとっくに超えてしまったナマエへの愛おしさは、その言葉に後押しされて一気に加速する。

薄っすらと瞳に膜を張り、羞恥に染まる赤い顔で必死に見上げてくる小さな身体を強く抱きしめて、返事の代わりに呼吸を奪った。





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