触れたいと思うのは、君だけです




さわさわと頭を撫でる私の手を振り払うこともせず、じっとされるがままになっているローさんの姿が何だか物珍しくて。もっと触れたい――そんな風に感じた時にはすでに、だらんと下ろしたままだった左手はパーカーの裾をギュッと掴んでいた。



「ローさん…」

「……っ、」



触れ合う指先だとか、肌に感じる体温を、あんなにも恥ずかしいと思っていたはずなのに。どうしてだろう、今はこんなにもローさんに触れたいと思う。手のひらだけじゃ不安で物足りなくて、身体全体を使ってぎゅうぎゅう抱きつきたいくらいに。



「心配かけて、ごめんなさい…」



すごく恥ずかしいし怖いけど、でもやっぱり私はローさんにもっと近づきたい。さっきはキッドさんの姿にローさんを重ねたりもしたけれど……こうして息のかかる距離で全てを委ねたい、手を繋いだり抱きしめられたり、キスよりもっと先に進みたい――そう思える人は、私にはローさんだけだ。



「あのね、私――」

「ナマエ…、悪ィ」



今の精一杯の気持ちを、全部残らずぶちまけてしまおう。そう決意した私の言葉を遮るように、ローさんが私の身体をそっと引き剥がす。宙に浮いた私の両手は掴むべきものを失って、中途半端な位置で止まった。


二人の間をすり抜ける風は妙に寒々しい。戸惑いがちに見上げた視線は、ローさんのそれとあっさり絡み合う。


何が"悪い"のか、どう"悪い"のか――ローさんの言葉の意味を図りかねて。不機嫌というよりもどこか困ったように眉根を寄せる、初めてローさんが見せた表情に見事視界を占拠された。



「……何で、謝るの?」

「勝手に腹立てて悪かった。…ただ、」

「ただ?…なに?」

「またお前がどっか行っちまったかと思って……心配、した」

「…うん、勝手にいなくなって…ごめん」

「いや、もういい」



そう言って私の前髪を梳くように優しく撫でてくれた大きな手のひらに、ひどく安心感を覚える。



「ローさんが探しに来てくれて、嬉しかった」



勇気を出して伸ばした両手で、ゴツゴツと骨張ったローさんの手にそっと触れた。もう一度、二人の間に出来た空間を埋めるように一歩踏み込む。今度は私がローさんの肩先におでこを乗せて、身体を預けた。触れ合う温もりから、気持ちも全部伝わればいいのに。



「ナマエ……これ以上お前に触れたら、無茶苦茶にしちまいそうだ」



苦しそうな吐息に乗せて零れ落ちたローさんの言葉が、私の耳元で小さく揺れる。胸をギュッと強く掴まれるような、そんな息苦しさが甘い痛みを植え付けていった。





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