それは赤い髪の海賊との邂逅




"海賊王になる"――そう言ったキッドさんの自信に満ち溢れた姿に、ローさんの船に乗ってすぐの頃の記憶がよみがえった。そうだ、この強い眼差しと精悍な顔つきを、私はすでに知っている。



「――…そう、ですか。やっぱりキッドさんは海賊王目指してるんですね」

「あ?だったらどうした、てめェもさっきの奴らみてェに笑うか?」

「そうじゃないですよー!」



ローさんと同じように海に焦がれて、ワンピースを求めて、海賊王の座を掴もうとしてる人がいる――それが何故だか嬉しくて。何でだろう?ライバルになってしまうのに、でもどこか誇らしい気持ちになるのは。


うん、きっと真っ先に思い浮かべた"あの人"の姿を、重ね合わせてしまったからだ。



「だったら何だってんだ。返答によっちゃ、そのニヤついた顔めちゃくちゃにしてやってもいいんだぜ?」

「もう、物騒だなー。ただ、ワンピースを狙うライバルになっちゃうなーって思っただけですよ」

「あァ?てめェがワンピースだと?」

「や、違う違う〜私じゃなくて!」

「――俺だ、ユースタス屋」

「そうそう、俺―…って、え?えぇえ!?」

「……あ?てめェはたしか…」



サラッと会話に入ってきたのは、まさに今頭の中で顔を浮かべていた――死の外科医、その人で。ていうか何なの、その普通すぎる通常テンションは。



「帰るぞ、ナマエ」

「え、ローさん…何で、」

「話は後だ、――シャンブルズ」



いつの間にここへ?どうして私が居るって分かったの?という心からの疑問は、ローさんお得意の"シャンブルズ"に遮られてしまった。あっという間に、その辺で転がっていた酒瓶と位置が入れ替わった私は、ローさんの腕の中。



「北の海の死の外科医か…。悪ィ噂は聞いてるぜ?」

「ハッ、そりゃどうも」



私の二の腕を掴んだローさんが、酒場の入り口に向かって歩き出した―…その時。引き止めるようにキッドさんが声をかけてきた。挑発的なキッドさんの声色に反応したローさんも、ピタリと歩みを止める。



「そこのすっ呆けた女、てめェんとこのクルーか」

「ちょ、ひどッ!言葉の暴力はんた…―むぐっ!」



あんまり過ぎるキッドさんの発言に、一言物申してやろうと思った私。けれど大きく開いた口は、すぐにローさんの更に大きな手で抑え込まれてしまった。そしてニヤリと口端を持ち上げたローさんが、ゆっくりと後ろを振り返る。



「だったらどうした?欲しいっつっても、やらねェぜ?」

「へっ、そうかよ。随分と気に入ってんじゃねェか」

「まァ、飽きはしないな…コイツがいれば」

「へェ…この先の海でまだてめェがくたばってなかったら、そん時は船に乗せるのも面白ェかもしんねェな」

「……出来るもんならやってみろ、フフ…」



DEATHの文字が彫られた左手をゆっくりと掲げ、中指を立てるローさん。瞬間――ヒュッと風を切る音がしたかと思うと、ローさんが立つ前方の壁に深くナイフが突き刺さった。



「あっ、私のナイフ…!」



ナイフを投げた張本人のキッドさんは、耳まで裂けるんじゃないかってくらいに大口を開けて、ニィと笑っている。何だかよく分からないけど、やけに愉しそうだ。



「返してやるよ。――ナマエ、っつったか―…またな」



壁に刺さったナイフを抜き取ろうと奮闘していると、ふいに呼ばれた自分の名前。

思わず振り返ろうとしたところで、もう一度強く腕を掴まれて。そのままズルズルとローさんに引き摺られていってしまった。


"またな"の言葉に返事は出来なかったけれど、きっと今後の航路――シャボンディ諸島で、イヤでも再会することになりそうだ。





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