思い浮かべる姿は、君なんです 「フン、ちょうど退屈してたところだ。ログが貯まるまでの暇潰しくらいにはなんだろ」 「はっ!?え、ちょッ…待っ!ぎゃあぁっ!」 いきなり宙に浮いたかと思うと、ぐるんと回った視界は真っ赤。その赤と腹部を圧迫してくる硬い感触に、どうやらキッドさんの肩に俵担ぎされているらしいと気付くが。 ていうか、痛い!なんか当たってる!!尖ったヤツが…!とジタバタ暴れてみたものの、さすが億越えルーキー…ビクともしないよ。 「ゴチャゴチャうるせェ奴だな、今ここでヤッてやろうか?」 「ひぃっ…!(殺ると犯る、どっちだぁあああ)」 「たまには気の強ェ生意気なガキも悪くねェ」 不吉な笑顔で不吉なことを口走る赤い悪魔。その空いた片手が、ツツツとショートパンツから剥き出しの太腿を撫で上げた瞬間――咄嗟に反応した身体が、赤く逆立った後頭部に肘鉄を食らわせたのは、しようがないと思う。不可抗力だ。いや、これは立派な正当防衛だ。 「いっやぁああーー!セクハラぁああッ!!!」 「いっ、てェな…この野郎!じっとしてろ!!」 鼓膜のすぐそばで大きな叫び声を上げられたのだ、きっと堪ったもんじゃなかっただろう。いやしかし、私も慎み深い乙女。いくらローさんのセクハラに慣れているとはいえ、初対面の人に生足を撫でられて平気でいられるワケがない。 一層手足をバタつかせて強力な腕の拘束から逃れようと試みるものの、全く歯が立たず私はそのままキッドさんという名の誘拐犯の肩の上。すれ違う町の人たちがわざとらしく視線を逸らしながらも、こちらの様子を窺っているのがよく分かった。そして悲しいかな、誰も助けてくれないわけで。 そしてあれよあれよと言う間に連れて行かれた先は――さっき破壊され尽くされたのとは、また別の酒場。 「おら、酒注げ」 「なっ、なんで私がお酌なんて!」 「あァ?文句あんのか」 「なっ、なななないっす!」 まったく納得はいかないものの、蛇に睨まれたカエルのごとく私は大人しく従うしかない。肩を抱かれながら、この"ユースタス・キャプテン・キッド"様の空いたグラスに、度数の高いアルコールを何度も注ぎ足す……って、何なのこのキャバクラ状態。 「ったく…こんなシケた島、さっさと出て行きてェぜ。なァ、キラー」 「そうだな、特別目を惹く何かがあるわけではないな」 「……(あ、違いない以外に喋ったよキラーさん)」 "違いない"以外にもカタコトじゃなく、普通に喋れるんだなぁ〜なんてとっても失礼なことを内心思いつつ、じっとキラーさんを見つめれば。 「……今、何か失礼なことを考えていたのではないか?」 ――見事にバレバレだった。しかも仮面の下に隠れて表情は見えないはずなのに、何だかキラーさんがしょんぼりしているような気がする!もれなく気まずい空気が漂っている気がする!! 「そっ、そそそんなことは!…えーっと…いや、何でさっき暴れてたのかなぁって?」 「なんで疑問形なんだよ、つーかドモりすぎだろ」 「ちょ、キッドさん手厳しい!…で、実際はどうなんですか?」 とりあえず誤魔化すようにキッドさんへ質問を繰り返せば、返ってきたのは何とも彼らしい答えだった。まさに漫画のイメージそのまんま。 「笑いてェ奴らは笑えばいい。この先、そいつらの屍を積み重ねた山に立つ俺こそが――…海賊王だ」 ニィ、と鋭く口角を上げながら笑うキッドさんの表情。その真っ赤な瞳に宿る炎は激しくて、どこかローさんを彷彿とさせた。外見はもちろん、二人の放つ雰囲気はこんなにも正反対だというのに。 だから思わず目を離せなくなってしまったのも、不可抗力なんだと思う。 目次 | *前 | 次# |