厄介な人に目をつけられました 「何モンだ、テメェ…」 「ぐぇえっ!」 襟首を噛んだ母猫に持ち上げられる子猫のように、目の前の真っ赤な大男に首根っこを掴まれる私。思わず踏みつぶされたカエルのような声が出てすごく嫌な顔をされたけど…いや、それどころじゃなくて。 「ちょ…ッおか、さ…くる、し…!」 「おいッ!誰がお母さんだ、テメェ!」 「あ、間違えた…つい、ケホッ」 顔まで真っ赤にさせて怒り出すユースタス・キャ…長いな、えっと…キッドさんがやっと手を離してくれたので、ゲホゲホと咽かえりながらも必死に肺へ空気を取り込んだ。――と思ったら、いきなりゴツン!と拳骨が降ってくるもんだから、堪らない。 「痛っ!そんなに怒らなくてもいいじゃないですか!!ちょっと愛らしい子猫になりきってただけですよ」 「意味の分からねェこと言ってんじゃねェ!さっさと俺の質問に答えやがれ!」 「質問…?って何ですか」 「てめッ、人の話はちゃんと聞きやがれ!!」 「お前は何者かと、キッドはそう尋ねている」 頭上に疑問符を飛ばしながら小首を傾げる私に、カルピスカラーの仮面の人が丁寧に教えてくれた。ていうかこの人、何て名前だったっけ…えーっと…… 「き、ぎ?キ、キラ、キラ…?」 「キラーだ」 「あっそれだ!」 人の名前を間違うだなんて、私としたことがうっかりうっかり!そうだキラーさんだよ、確か通り名は"殺戮武人"……って、物騒極まりないな。話した感じは紳士的で穏やかそうなのに、人は見かけによらないのかなぁ。 「それだじゃねェよ、テメェ。だから何で俺たちのこと知ってんだ」 「い、いたた!痛い痛いっ!」 般若のような顔をさらに歪めながら、キッドさんが大きな手でガシリと私の頭を掴む。いわゆるアイアンクロー的な。というか、何故知っていると聞かれても"漫画で読みました"なんて言えるわけもなく。 「ほ、ほらっ!手配書ですよ、手配書!」 「あ?テメェみてェなちんちくりんなガキが、賞金首のチェックか?」 「なッ!ちんちくりんて!」 「違いない」 「いやいや、違いなくないよ!何言ってんのキラーさん」 キラーさん、全然紳士でも何でもなかった!ちんちくりんに同意するなんて、紳士の風上にも置けない人だ。そりゃまぁ私は、スラッと背が高くてボンキュッボンなセクシー美女には程遠いけどさ…。 「そういやこのナイフ、お前のだっつってたな」 「あっ、そうだ!それ返して!」 ちんちくりんだなんて暴言を吐いたキッドさんが、私のナイフを太陽の光に透かしながらまじまじと眺める。 「人殺しの道具には見えねェが…ただの一般人にしちゃ胆が据わってやがる」 「もういいでしょ!それ、大切なモノなんだから早く返してよ」 「三億越えの賞金首を前にして、その態度……フン、面白ェ奴だ」 訝しげな視線を向けてくるキッドさんに、負けじと睨み返してやれば。赤黒く塗られた唇をニヤリと歪め、ローさんとはまた違った意味で危険な笑みを浮かべて笑った。 目次 | *前 | 次# |