言葉にしなければ伝わらないのに




朝食後の食堂は普段以上にガヤガヤと賑わっていた。それもそのはず、さっきローさんから昼過ぎには島へ上陸するという予定が告げられ、お小遣いのベリー紙幣がペンギンからクルー全員に手渡されたのだから。


どこへ行く?だとか、何買おうかなんて顔を寄せあって相談しあう様は……さながら修学旅行でテンションの上がっている男子中学生のようだ。


まぁそういう私も、久しぶりの上陸をどこか心待ちにしているわけで。こうして与えられている物置部屋で、洋服選びに夢中になっているわけだけど。



「お財布よし、ハンカチよし、化粧ポーチよし、お守りのナイフも準備よーし!」



膝上丈のショートパンツにパーカーを羽織って、前回の島でローさんが贈ってくれたお守り代わりのナイフを専用のベルトホルダーに差し込めば――ちょっとカジュアルなお出かけスタイルの完成だ。





*****





奥まった入り江へ隠すように停泊させた黄色い潜水艦。わらわらと姿を見せるお揃いのつなぎに身を包んだむさ苦しい男たちが、街を目指して我先にと駆け出す。

背中に掲げられたマークが揺れるのを眺めながら、しっかりとした大地の感触を味わっていると―…



「ナマエ、行くぞ」

「!ローさん遅いよ!って、あれ?ベポも一緒に行くの?」

「…熊が一緒に行ってすいません…」

「あ、いや、そういう意味じゃなくってね!?」



てっきり二人きりで出掛けるものだと思っていたのに、船内から現れたローさんの傍らには…いつも通り刀を携えたベポの姿。



「先に俺の用事に付き合え。ベポには運んでもらうモンがあるからな」



そう言ってスタスタと背を向けて歩き出したローさんを、疑問符を浮かべながらも慌てて追いかけた。上陸したこの島は、海岸から町の中心部までは緑の多い長閑な景色が広がっている。


海上の潮風とはまた違った澄んだ空気を大きく肺に取り込めば。徐々に近づく活気ある賑やかな街並みに、胸が高鳴った。


――こっちの世界に残ってよかったこと。それはローさんやハートのみんなと楽しく過ごす毎日はもちろんのこと……こうして本当ならば経験するはずのない新しい世界をたくさん見れる、っていうのも大きいかもしれない。


もちろん一人ぼっちで見ても楽しくなんかないと思うから、やっぱり傍に居てくれる存在の大切さっていうのは…ヒシヒシと感じていたりもするんだ。恥ずかしいからローさん本人には言えないけれど。



「……この辺りがそうみたいだな」

「え?」



一歩前を行くローさんの足が止まって。ふと周りを見渡すと、レンガが敷き詰められた通りに面して軒を連ねる―…お店?家具工房だろうか。店先にはまだ製作途中の椅子が転がっていて、職人さんらしきオジサンがやすりをかけている。



「…椅子、買うの?」

「違ェ。そろそろお前のベッド、買ってやろうかと思ってな」



まったく想像もしていなかったローさんの言葉に、頭の中の整理が追いつかなくて。

何で?とか、どうして今さら?とか、じゃあもう一緒に寝ないの?とか。聞きたいことはたくさんあるのに、言葉にすることは叶わなかった。





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