可愛い可愛い、分からず屋




温かくて柔らかいナマエの身体は、絶好の抱き枕。


ふわふわと気持ちいい微睡みの中にいた俺を、呼び覚ましたのは―…

大して痛くはないが、延々と続きそうな肩への打撃。それから、泣き出しそうな顔で拳を打ちつけてくる、ナマエの姿だった。


目が合った瞬間、堰を切ったかのようにボロボロと零れ落ちる涙。



「…なに泣いてんだよ」


「ううっ…知らないッ!ローさんのバカ!!買い物付き合ってくれるって言ったのに途中でいなくなるし、ずっと待ってたのに戻って来ない、し…ローさんのせいでオムライスだって美味しくなかったんだから…!」



溢れ出すソレを乱暴に手で拭いながら、喚き散らすナマエ。


その様子に、反応を返すのが一瞬遅れてしまったのは…きっと寝起きの所為だけじゃない。

はじめて見るナマエの姿に、意識をごっそり持って行かれたのだ。




「…ナマエ……、悪かった」



「…ぇ……ローさん…?」




ナマエの瞳から落ちる涙が綺麗だ―…なんてガラにもねェことを考える俺の口からぽろっと零れたのは、らしくない謝罪の言葉。


泣いていたナマエでさえ、キョトンとした表情を浮かべ驚いている。



「…目擦んな、腫れるだろ?不細工になるぞ」


「別に元々ブサイクだから、いいんだもん」


「何言ってんだ、バカ」



不貞腐れるナマエを宥めるように、頭を撫でようと手を伸ばせば――すんでの所で振り払われた。



「…おい、」


「色っぽくて綺麗な女の人を抱き慣れてるローさんからしたら、どうせ私なんかブサイクでしょーよっ」


「…あァ?娼婦なんか別に綺麗でも何でもねェだろが」


「その割に昨日は随分と遅くまでお楽しみだったみたいですけどね!」


「何だよ、まさか妬いてんのか?」


「んなわけない!!」


「つーか大体、昨日はヤってねェ」


「嘘つき!1発ヤってくるとかセクハラ発言かましてたじゃんか!!」


「うるせェ、ちゃんと聞きやがれ。確かに女は買いに行ったが、ヤる気が失せたから一人で酒飲んで帰って来たんだよ」


「……うそだ…もん」


「もん、じゃねェ。だったら俺から女の匂いがするかよ?」



俺の話をまともに聞こうともせず、膨れっ面のままそっぽを向くナマエ。

その小さな身体を強く抱きしめてやれば、腕の中に収まるナマエの耳がみるみる赤く染まっていった。


(…ったく、気付くのが遅ェんだよ)




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