そして迎えた、新しい朝




ああ、なんて暖かくて柔らかい―…これはきっと、ふかふかの羽毛布団の感触だ。

夢と現を行き来しながら、まだ覚醒しきっていない頭の片隅で考えた。


それから――しゃぼん玉が弾けるようにパチンと浮上する意識。


…いや、ちょっと待ってよ、おかしいよ。何で、布団?

だって私は、帰って来ないローさんをずっと船尾で待ってて――…



「…え…っと……?」



ゴシゴシと何度寝ぼけ眼を擦ってみたところで、目の前の光景に変化はない。


普段の鋭い眼光は閉じた瞼に仕舞って、静かに寝息を立てているのは――相変わらず酷い隈を拵えた、待ち人トラファルガー・ローだった。


もしかして、いや…もしかしなくてもこの状況は―…

ローさんを待ってる間にそのまま寝ちゃって、しかも帰って来た張本人にここまで運ばれたパターンか…!


え、何それ、すごい格好悪い…。

ん?…でもちょっと待てよ。冷静になろう、自分。


よくよく考えてみたら…勝手に買い物の途中で居なくなるわ、あんなに待ってたのに知らない間に帰って来てるわ…

挙句、女の人を買った後なのにまた私のこと抱き枕にして寝ちゃうとか……ローさんって、ほんっと自分勝手!デリカシーなさすぎ!


私の気持ちも知らないで、ひどいよね。気持ち良さそうに寝てる場合じゃないっつーの。

(まぁ私自身、自分の気持ちに気付いたのが昨夜だということは…この際棚に上げておこう)




「も…っ、ローさんのばかぁ!」



淋しかったんだから!と心の中だけで非難を浴びせつつ、眠るローさんの肩めがけて、握った拳を何度も繰り返しお見舞いしてやった。


けれど幾度目かのパンチは目覚めたローさんに手首を掴まれ、あっさり空中で止まってしまう。




「…おい…何やってる」



「…っ!…う、…ふぇ……ろぉ、さん…!」




たったの数時間。それだと言うのに、ローさんの怪訝そうな視線が私を捉えていることが、素直に嬉しい。


"寝起きで腫れぼったい瞼に、涙でぐしゃぐしゃの不細工な顔"

そんなローさんの瞳に映る自分の姿に、何故だかとても安心して。


糸が切れてしまったみたいに、どんどん涙腺が緩んでいくのを感じた。




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