スタンド・バイ・ミー




アルコールの回った怠い身体を引き摺って、戻って来た見慣れた潜水艦。

早々にベッドへ潜り込んでやろうと横切った船尾で見つけたのは―…



――スー…スー……



「ナマエ…?」



月明かりに照らされてぼんやり浮かぶのは、いじけたように小さく丸まる背中。

体育座りをした状態で、膝に顔を埋めたまま寝息を立てる、ナマエの姿だった。




「……何やってんだ、こんな所で」




ぽつり呟いた言葉に、返事はない。

このまま夜風に晒された状態で放ってもおけず、起こさないようにそっとナマエの身体を抱き上げる。


コツンコツンと靴音を鳴らしながら、ゆったりとした足取りで部屋へ。

覗き見た寝顔に、思わず頬が緩むのを感じた。



――…フフ、あったけェ。


腕にかかる重みと温もりが、やけに心地良い。



そうして――…やっと気が付いた。



ナマエに欲情した理由。
けど抱くことなんて出来なくて、突き放した理由。
それから、街の女を抱けなかった理由。


数時間ぶりに感じる体温と、この間抜け面に…何故か安心する、理由。





「……なあ、お前は一体何者なんだ…ナマエ、」



軋むベッドのスプリングは、俺の質問には答えない。



――だが、別に答えなんか求めちゃいない。



突然空から降ってきて、異世界からやって来たなんて言うおかしな女。ちょっとからかってやれば、顔を真っ赤にしてギャーギャー喚く。


こんなうるせェのに、こんなにも傍に置いておきたい―…そう思った女は、生憎とはじめてだ。



――俺の中を好き勝手満たしていく、この温もりがすべて。




「…フッ……変なヤツ」



横たえたナマエの身体を抱き込むように、腕の中に閉じ込めた。


きっと明日の朝も、俺の腕の中で大騒ぎするナマエの、真っ赤な顔が拝めるだろう。




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