この胸を騒がせるのは…




一度浮かんだ疑問は消えることなく、私の頭の中をぐるぐると廻り続ける。


――そして考えれば考える程、疑問は確信へと姿を変えていくわけで。


少し頭を冷やそうと、船内を出て静かな船尾へと向かった。



「…わ、…すごい…」



腰を下ろした私の正面、遠くに見えるのは…宝石箱をひっくり返したかのような煌めく街の灯り。

このキラキラの中のどこかにローさんが居るんだ…なんて考えてしまって、そんな自分が嫌になる。



「……何で、よりによってローさんなのよ…」



きっと私のことなんて単なる暇潰しとしか、思ってない。

大体、隣に居て欲しいと願ったところで…ローさんと私とじゃ住む世界が違い過ぎるんだ。



「………」



見上げた夜空の月も、すり抜ける潮風も、何ひとつとして私の独り言に返事なんてしない。

戸惑いを孕んだ小さな呟きは、船体に打ち寄せる波の音に見事かき消された。





***






「―…ナマエ?」


「……あ…、」


「こんな所で何してるんだ」



座り込んだ背中を覆うように落ちた影。思わず振り向けば、頭上から聞こえてきたのは…ペンギンの声。



「風邪ひくぞ?」


「うん」


「うんじゃなくて、早く部屋に――」


「…ねえペンギン。……ローさん、戻って来ないね」



ぼんやりと街の灯りを眺めながら零れた声は、耳を澄まさなければ聞き取れないほど。



「……そうだな。…この分じゃ、明日の朝まで戻って来ないかもしれない」



それなのに――帽子に隠れたペンギンの両耳は、私の言葉をしっかり捉えていたらしい。



「…ナマエ、ちゃんと部屋に戻るんだぞ?」



私の頭を軽く撫でながらそう促すとそれ以上は何も言わず、踵を返して船内へと戻って行った。



ペンギンが去った後―…それでもやっぱり私は、眠らない街の灯りを眺め続けていた。

未だ帰って来ないローさんを待ち侘びるように、ぎゅっと膝を抱えながら。




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