味気ない、物足りない、君がいない




買ってきた洋服や日用品の整理が終わって、食堂へと向かった私。

けれど夕食時になっても、ローさんは戻って来ていなかった。


ぐるりと見渡した食堂はガランとしていて―…普段の騒がしさはすっかり影を潜めている。

さっき騒いでる声が聞こえたから、きっとみんな綺麗に着飾ったオネーサンのいるお店にでも行ったんだろう。



「ほいよ、特製ふわふわオムライスだ!嬢ちゃんにはプリンもおまけしちゃうぜ?」


「…へ?…あっ、ありがとう!」



ニカッと笑いながらコックさんが手渡してくれた、出来立てホヤホヤのオムライスのプレート。

美味しそうに湯気を立てるそれを見ても、食欲が湧いてこないのは何でかな…。


そう言えば…食事の時間、隣にローさんが居ないのは初めてのことだ。

機械的にスプーンを口に運んで咀嚼していくオムライスが、何だかとても味気なく感じた。



「お味はどうだい?」


「あ、…えと、美味しいです…」


「……ハハッ、嬢ちゃんは素直じゃねェな〜」


「……えっ…と?」


「顔に書いてあるよ、船長が居なくて淋しいって」


「…っ!!」



私自身まだ整理のついていない感情をすべて見透かすように、コックさんが優しく笑う。

穏やかに細められた瞳をじっと見つめていると――



「料理ってのはなァ、ただ美味しく作れただけじゃまだ完成じゃないんだな。その料理を誰と何処でどんな風に食べるか―…それがとびっきりの隠し味になるのさ」



ぽんぽん、と軽く頭を撫でてから厨房へと戻って行ったコックさんの言葉。

ふわふわの卵と一緒に恐る恐る飲みこめば…お腹の中にストンと落ちて、少しだけ甘い味がした。


私は、ローさんに隣にいて欲しいって…思ってるの―…?




- 42 -
目次 | *前 | 次#
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -