無自覚に浮かぶ姿に微笑んだ




あのままナマエを前にしていたら、はちきれんばかりに膨れ上がった欲望のままに襲いかかってしまいそうだった。


だが、何もわざわざクルーに手を出すことなんて無い。そんな面倒なことをせずとも、欲を吐き出す女なんていくらでもいるのだから。


――そう思い直して、ナマエとベポを置き去りにした俺が向かったのは、1階が酒場になった売春宿。


そこは真っ昼間だというのに、染みったれた男と濁った瞳で薄ら笑いを浮かべる女達が、文字通り絡まり合っていた。


扉を開け足を踏み入れた俺に気付いた女が、すぐさま媚びた目で擦り寄って来る。


普段なら不味い酒を煽りながら女の身体に手を這わせ、いい具合に女の息が上がった所で薄っぺらい布団へと移動するのだが。


――…めんどくせェ。


奥のカウンターに座る親父に金を放り投げると、女の腰を抱いて宿へと続く階段を上った。


突き飛ばすようにベッドへ押し倒せば、青白い腕を首に絡ませてくる女。

使い込まれた身体のライン。確かめるようにゆっくりと撫でていけば、真っ赤な唇から吐息が漏れた。


男を誘い込むように身体をくねらせる女に、普段なら欲情するのだろうが―…不思議なことに今日は嫌悪感しか湧いてこない。



俺が触れたいのはこんな女じゃねェ。
俺が視界に入れたいのもこんな女じゃねェ。


―…俺を見るな、触るな。

――…あぁ、クソ…吐きそうだ。



目の前の女を抱く気になんて、到底なれず。絡み付いた腕を乱暴に引き剥がすと、声を荒げる女を放ったらかして出口へと向かった。




***





宿を出たはいいが、さてどうしたものか。


ナマエとベポにああ言って別れた手前すぐ船に戻るわけにもいかず、適当な酒場の扉をくぐる。

カウンターにはグラスを拭く店主と、寝てんのか起きてんのか分からねェような爺さんが一人座っていた。


頼んだ酒を煽りながら、今頃ナマエはベポを荷物持ち代わりに買い物を楽しんでるんだろうな、なんて考える。


あぁそういえば、下着を選ぶのがまだだったか。色気のねェアイツにも似合うようなヤツを選んでやるつもりだったんだがなァ…。

きっと下着屋に一緒に入ろうとすれば、セクハラだ何だとギャーギャー騒ぐんだろう。


そんな様子を思い浮かべれば――さっきまでのモヤモヤなんてすっかり吹き飛んで、思わず笑みが零れた。


(勝手にやって来て、勝手に俺の頭の片隅に居座るアイツ…だが、悪い気はしねェ)




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