とりあえず、お口チャックで!




「…んー…ぅ…?」



何だかいつもよりぐっすり眠れたな、なんて考えながらのそりと起き上がると。

刺青だらけの腕が、ダラリと腰に回されているのが視界に入ってきた。



「……気持ち良さそうに寝ちゃって、」



寝癖をつけて布団に包まる穏やかな寝顔は、普段よりも幼く見える。

…どうやら抱き枕としての役目は、しっかり果たせたらしい。


それに、私自身も心地よく目覚められたのは…あぁそっか…隣にあるこの自分以外の体温のせいだったのかもしれない。



「…ふふっ、てかすごい隈…」



つい幼い頃添い寝してくれた母親の面影を、隣で眠る隈の濃い凶悪顔に感じてしまったことに吹き出せば。



「…ん……」



眉を寄せて身じろぐローさん。起きるかな?と様子を窺えば、スースーとまた再開した安らかな寝息。


何故だかその寝顔をもう少しだけ眺めてみたくなって、そっと身体を横たえてみたけれど―…




『島が見えたぞー!!』




数分もしない内に、見張り台に立つクルーの弾むような声が船内に響き、同時にパチリと開いた鋭い目。



「「………」」



…この人は何でこんな寝起きの瞬間から、既に人を殺せそうな眼力を備えているんだろうか。

そんなことを考えながら向かい合った状態のまま、パチパチと瞬きを繰り返していると――



「なに見とれてんだ、ナマエ」



ニヤリと笑いながら、ローさんが腰に回した手を厭らしく動かしてきた。



「な、見とれてませんー!はい、セクハラー」


「バカかお前、女の腰は男に撫でられる為にあるんだぞ?」


「起き抜けに威張って言うことですか!」



あーあ、黙ってれば整った容姿に医者というオプションまで付いている優良物件だというのに…中身がコレじゃあね…残念なイケメンってこの事を言うんだろうな、うんうん。



「…はぁ…とりあえずもうすぐ上陸みたいだし、着替えて準備しましょーよ」


「ほォ、ナマエが今からストリップしてくれんのか」



肘をついてニヤニヤと笑うローさんに無言でチョップをお見舞いして(見事にかわされたけど)船長室を後にしてやった。


もう何か、いちいち付き合ってたら疲れるんですけど!

(でもそれに慣れつつあるのも…確か、だったりして)




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