この妥協案…私、損してない?




「よしっ!じゃあーそろそろ寝ますか!」


「ああ、って…おい何してる、ナマエ」


「え?何って、寝る準備じゃないですか」



準備を整え、さぁ寝るかと身体を横たえようとした瞬間――何故か隣に座るローさんから上がる異議申し立ての声。



「じゃないですか、じゃねェーよ。その、身体にやたら頑丈に巻きつけてる毛布は何だ」


「対変態用の要塞ですが何か」



ふふん。甘いな、死の外科医よ。私が素直に抱き枕になると思ったら大間違いだ。

ヘンな所に手を入れられないよう、毛布をぐるぐる巻き。ちょっと寝返りとかは打ちづらいけど、まぁそこは乙女の貞操を守る為には我慢しよう。



「…外せ」


「は?断る!」


「あァ?船長命令に背くのか?」


「職権濫用、はんたーい」


「てめェ…!」



恐ろしく不機嫌そうに眉を寄せるローさんが、毛布を剥ぎ取ろうと馬乗りになってきた、けど……あれ?これ、やばくないか?

この毛布簀巻き状態、身動き取れなさすぎて…逃 げ れ な い じ ゃ ん !!



「観念しろ、この!」


「ぎゃ、ちょっ!こらー!どこ触ってんだエロ船長!!」


「ナマエ、お前はちっとも分かってねェ!抱き枕っつーのは、柔らかく滑らかな感触とだなァ…」


「黙れ変態!」


「山あり谷ありの凹凸あるボディラインがいいんじゃねェか…!」


「言い切ったよこの人…!」



そして―…じたばた、ぎゃーぎゃーと取っ組み合いの掴み合いに発展しかけた頃。

ドンドンドン、と苛立ちを含んだ音で、荒々しく船長室のドアがノックされた。



「「今、取り込み中!だ!」」



思わず重なった二人の声に、至近距離で微妙な表情のまま睨み合う。

――が、そんな緊張感も一瞬で崩れた。



「船長、静かにしてくれ!…ったく、何時だと思ってんだ…全く…」



ドア越しに聞こえてきた声はペンギンのもので。ブツブツと文句を零しながら、足音が遠ざかって行った。え、何あれ、消灯時間に見回りに来た先生…?



「「………」」



何故だか(というか、まぁ騒いだ私たちが悪いんだけど)夜中に怒られてしまった私たち。ローさんは見事に戦意喪失してしまったようだ。…良かった。



「…ハァ…寝るか」


「…うん」



とりあえずお互いの妥協案は、毛布ぐるぐる巻き×ローさんにがっちりホールド――で落ち着いた。…ていうか、暑いんですけど。




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