理由なんてないけど、




「ナマエ、寝るぞ。電気消せ」



ガシガシとタオルで髪の毛を拭きながら、ローさんがお風呂から出てきた。


ローさんの宣言通り、私は今夜から抱きまくら係になるらしく。不本意ながらもこうして船長室のベッドの上で正座して待っていたわけである。


いや、どう考えても危険なシチュエーションなんですけどね。


でも何故だか断れない。と言うか、拒否ったところですんなり納得するような相手じゃないだろうし…下手すりゃバラされる。


それに――そこまで嫌じゃないかも、とか思ったりしてる自分が一番不思議な件。


今朝目覚めた時だって圧し掛かられた苦しさはあったけど、別に触れられること自体が気持ち悪いとか嫌だとかは一切思わなかった。…何でだ、自分。



「…おい、聞いてんのか?」


「わ、ちょ!水飛ばさないで!ちゃんと髪乾かさないと風邪ひきますよ?」


「うるせェ、俺に命令するな」



命令じゃなくて親切心なんですけど、というささやかな文句は心の中に仕舞って。ベッドに腰かけたままミネラルウォーターをガブ飲みするローさんの後ろに回り込んだ。


そのまま首に掛けてたタオルを奪って濡れた髪の毛を乾かしていくと。

一瞬驚いたような顔をしたローさんがこちらを振り返ったけど、すぐに前を向いて大人しくなった。


少しだけ笑んで、そのままわしゃわしゃと手を動かす。たまにゴク、ゴクンと冷たい水がローさんの喉を通る音がした。


お互い何も喋らないまま、でもお風呂の湯気みたいにほんわかした空気が確かに此処にあるのを感じる。


こうして誰かと一日中一緒に過ごすなんて、随分久しぶりだったからかな。…それとも、相手がローさんだから…?

何だかすごく懐かしいような、そんな気がして不思議と心地いい。


もし、もしも。

こっちの世界へやって来た時に落っこちたのが、このハートの海賊団の船じゃなかったとしても。


私は――こんな風にふわふわ、ぽかぽかした気持ちになっているんだろうか。




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