死の外科医の定義=ただの変態




「お、着替え終わったか」



新聞の紙面から顔を上げたローさんが、バスルームから出てきた私に向かって声をかける。

が…いやいやいや、終わったか。じゃなくて!あんたが持ってきた着替えは何故かお揃いのパーカー(しかも下はない)とスケスケのパンツだけじゃないか…!!

そんな気持ちを思いっきり込めて盛大に顔を顰めてやれば、さも愉しげに喉の奥を震わせるもんだから本気で殺意が湧きそうになった。わざとか、わざとなんだな。



「いいな。そのギリギリの丈から覗く太腿がやべェ」


「変態」


「嫌なら脱いでもらっても構わねェが?」


「…つなぎ貸して下さいよ!」


「却下」


「…鬼、変態、隈、変態…」


「どんだけボキャブラリー少ないんだ、お前」


「……ローさんの意地悪」


「後で昼飯行く時には何か穿くもん貸してやる」



スースーする下半身を気にしつつも、恨みがましい目つきでローさんを見れば。
呆れたように吐き出されるため息とともに妥協案が提示されたので、何とか納得してソファに腰を下ろす。もちろん両足はぴっちり隙間なく閉じて。



「ていうか何でこの下着チョイスなのよ…」


「何だノーパンの方が良かったか、お前も」


「も、って何!?」


「仕方ねェだろ、あの女が置いてった下着しか女モンはねェんだから」


「軽くスルーしないで下さい。自分の発言に責任を持て」


「よし、ナマエ。ちょっとそこでM字開脚してみろ」


「するかっっ!!!!」



一応言っておくが、ここまでの会話でローさんは終始真顔だ。何だか私だけ取り乱してるのが馬鹿馬鹿しく思えてくるんだけど…いや、間違ってない…よね?



「そういやさっき言い忘れたが、明日には次の島に着くらしいぞ」


「へえ〜…って、え?何ですか、その含み笑い。嫌な予感しかしない」


「今ここでM字開脚すれば、お前の欲しいモン何でも買ってやる」


「鬼畜!ていうか死の外科医様がそんな単語、口にしないで!お願いだから!!」


「気にするな。死の外科医はそんなこと気にする小さな器じゃねェ」


「しろよ!てか意味不明だわ!…ぎゃっ、ちょ待っ!や、やめ…!」



向かい側のソファに座るローさんの手が私の太腿に掴みかからんとした、その瞬間。



――コンコンッ、



「キャプテンいるー?お昼ご飯出来たよー」


「!!ベポーッ!助かったぁああ!」


「チッ…」


「…あれ?ナマエいたんだ。何でキャプテンの服着てんの?」


「え?つなぎ濡れちゃったから…仕方なく」


「ナマエ、新入りのくせにずるい!ねえキャプテン、おれも同じの着たいよー」


「あー…また今度な」


「もう!キャプテン、いっつもそればっかり!」



ねえねえと可愛らしく強請る巨体の白熊の頭を撫でつつ、ローさんが部屋を出ていく。…って、あれ?私のズボンはぁぁああ!?



「待ってローさん!何か下に穿くもの貸して!」


「あァ?適当に漁って穿いてこい」



もー自分が言ったくせに勝手なんだから…とか何とかぶつくさ文句を零しつつ、勝手にクローゼットを物色させてもらう。

パジャマか何かだろうか?スウェット素材の丁度いいハーフパンツがあったので、いそいそと穿きながら、ふとテーブルに目をやると――



「……これ…!」



新聞の一面にでかでかと載る記事は、海賊麦わらの一味が起こしたエニエス・ロビーの事件を派手に伝えていた。




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