トンネル抜けたら海でした




「うあぁぁあぁ!やぁーばぁーいぃぃー!」



朝っぱらから感傷に浸ってる場合じゃなかった…!
あと10分以内にタイムカード打たないと、店長に殺される!
今月三度目の遅刻は何としても阻止しないとクビ確定だし!!


あのトンネルを抜ければ、ナマエが働くショッピングモールに到着だ。プルプルと震える太ももに鞭打って、ラストスパートをかけた。


スピードを増した自転車の車輪が砂埃を上げる。重力から解放され、一瞬ふわりと身体が浮くような感覚に陥った。



「よっしゃ抜けたぁー!……って、ギャーーッ!!?」



トンネルを抜ける瞬間、突き刺すような眩い光が差し込んできて思わず目を瞑る。

そして次の瞬間、目を開けた視界に飛び込んできたのはサンサンと輝く太陽にキラキラ反射する青い海だった。


宇宙人が出てくる昔の外国映画よろしく、空中でペダルを漕ぐナマエ。


加速した車輪は摩擦を起こしていたアスファルトの地面が消え去った今も、惰性で回り続ける。


回り続ける、が…やはり重力には勝てないようで徐々に真っ青な海に向かって傾き始めた。




「ギャーー死ぃーぬぅーー!」



「ぬぅーーー…」



「ぬぅーー…」



「ぬぅー…」



「ぅー…」






――キラーン






「…なんだありゃ?」




此処は今しがた襲ってきた海王類を船長ローが仕留め、一心地ついたばかりのハートの海賊団の船上。


甲板では夕飯にするべく海王類の解体が始まろとしていたが、それを遮るように呟かれたシャチの声にクルー達は揃って彼を見る。


口をポカーンと開けて空を見上げるシャチにつられて、全員が頭上を見上げる。


太陽を背負い逆光になったソレが何なのかはハッキリと分からなかったが、シルエットは自転車に乗った人間を象っていた。




「「「……何で人間っ!?」」」




クルー達の驚きの声がキレイにハモった瞬間、




「ROOM……シャンブルズ」




もうあと少しで海面に叩きつけられる、という瞬間――

甲板の上の海王類と、急降下中の謎の落下物体が入れ替わった。



――ガッシャァァン!!



落下物は、自転車に跨ったまま白目を剥いて気絶している女だった。




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