すでに前途多難な二日目の朝




余った袖と裾は目一杯ロールアップして、それでもまだダボダボのつなぎを引き摺りながら、食堂へ向かうローさんの背中を追いかける。

扉を開ける瞬間、チラリとこちらを振り返ったローさんの片眉が少しだけ上がった。



「…え。な、なに?何かおかしい?」


「……いや。さっさとお前の服を調達しねェとな」


「あー…確かに。これじゃちょっと動きづらいもんね」



余った布地を見せつけるように両腕を開いて見せると、頭上から小さなため息が落ちてきた。



「…ま、とりあえず今はメシだ」


「あいあーい」



ガシッと片手で頭を掴まれたままズルズル引き摺られ、食堂奥のテーブルに向かう。

何だか扱いが酷い気がするのはきっと気のせいではないんだろうけど、反論しても無駄だと思うので大人しくしておいた。我ながら順応力高いな、うん。


席へ着くまでの間にすれ違ったクルーが、よう!とかおっす!とか挨拶してくれたから、私もへらっと笑いながら片手をあげて挨拶を返した。


たったの一日。私がこの船にやって来て過ごした時間はそれだけにも関わらず、昨日の宴でもそうだったけど…本当にみんな気さくに接してくれるから有り難い。



「あいよ。二人ともおはよーさん!」


「ああ」


「おはよーございます!」



コックさんがローさんと私の分の朝食を乗せたプレートを目の前に置いてくれた。

私にはダージリンの紅茶、ローさんへブラックコーヒーを注ぎながら、コックさんが口を開く。



「二人一緒に食堂へやって来るなんて仲睦まじいねェ〜。こりゃ船長の女遊びが治る日も近けェかな〜」


「フン、馬鹿言ってんじゃねェ」


「そ、そうですよ!私はただ、目が覚めたら何でか船長室に居て…って、そうだ!ローさん!!ちゃんと説明して下さいよっ!」


「耳元で喚くな、頭に響く」


「だって!昨日はちゃんと部屋のハンモックで寝たハズなのに…!」


「ほォ…ちゃんと寝たつもりか、アレが」



口端をピクリと吊り上げながら黒いオーラを纏うローさんにいきなり頬っぺたを抓られた。


痛がる私なんてお構いなしのローさんが言うには――

船長室の隣にある物置部屋から何度も『ドサッ…ズルズル…』という音が聞こえてきて、気になって見に行くと。

ハンモックから転げ落ちた私が眠ったまま身体を引きずってハンモックに戻り、また落ちるという動きを繰り返してたらしい。



「仕方ねェから俺の部屋に運んでベッドに寝かせてやったんだ、バカ」


「う…だからって何も抱きしめて寝なくっても…」


「あァ?一丁前に文句言うその口、塞いでやろうか」


「ひっ!え、遠慮しときますっ」


「大体、隣に女の身体があったら抱きしめるのが男ってもんだ」


「な、何その意味不明な条件反射!」


「あっはっは!こりゃこれから先、苦労するなァ?嬢ちゃん!」



笑いごとじゃないですよ〜なんて不貞腐れたように呟く私の声は、コックさんの豪快な笑い声に見事かき消された。




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