厄介な抱きまくら お得意の気まぐれで自室へ連れ帰ったナマエの身体を、一瞬の逡巡ののちソファではなくベッドの上へ雑に転がす。 もう今さら医学書の続きを読み進める気分にもなれず、そうなれば途端に重さを増す疲れた身体を素直にベッドのスプリングへ横たえた。 毛布代わりに引き摺り込んだナマエの身体は柔らかく温かで、じわりと伝わってくる体温に布団の中が暖められていく。 この感覚は以前にも味わったことがある…そんな風に思いを巡らせて、すぐに気が付いた。ああそうだ、手負いの仔熊だったベポを拾ってきた時と一緒か。 「…フフ……おかしな奴だ」 今日の出来事を思い返しながら、引き寄せられるように自分よりもいくらか高い体温へ手を伸ばした。 すっぽりと腕の中に納まったソレは、小さな子供が母親の温もりを求めるように、もぞもぞと身体を擦り寄せてくる。 しかしそれは仔熊でもなければ小さな子供でもない。抱き寄せてみたはいいが、すぐにその手の中の感触を持て余す自分に気付いた。 シーツに散らばる髪の毛の間から覗く白いうなじだとか、薄桃色のぷっくりとした唇だとか、キャミソールから覗く丸い膨らみだとか、それら目に映るナマエのすべてが俺に"女"を意識させる。 気付いた時には、半ば無意識的にナマエを組み敷いていた。 いつも上陸した島で娼館の女を抱くように、衝動的に首筋へ顔を埋めた瞬間―… 「…ん……ろぉ…さ…」 「…!」 依然目を閉じたままのナマエの唇から、寝息と共に零れ落ちた自分の名前が鼓膜に響く。 「…あり、が…とぉ…」 ふにゃりと笑って安心したようにまた寝息を立て始めるナマエに、何だかすっかり毒気が抜かれてドサリとシーツの上に転がった。 「クソッ……襲っちまうぞ」 俺の胸に勝手に頬を埋めて眠るナマエから目を逸らして、天井の木目をじっと眺める。夜はまだまだ明けそうにない。 もういっそ自棄半分、湧き上がる衝動ごと抑えつけるように強く抱きしめてやった。 胸元でゲホゲホと噎せる声が聞こえてきたが、無視して抱き枕のように手足を絡めてやれば、次第に瞼も重くなってくる。 ――ああ、今夜はよく眠れそうだ―… |